生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 研究成果

超微量安定同位体検出技術を応用した農水産物の新トレーサビリティ分析システムの開発

研究の目的

農水産物の安定同位体比は、産地・肥料・生育地域を普遍的に反映するため異なる値を示すことから、生物固有の化学指紋となる。本研究では、この特徴を食品の産地特定へ応用することを目指した、農水産物の有機物の天然レベル安定同位体比バリエーションによる産地特定技術と、特定有機分子(アミノ酸・脂肪酸)の安定同位体比を人工的にわずかにコントロールする分子タグ技術による新トレーサビリティシステムを開発する。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 多元素の安定同位体比分析を用いた天然レベル安定同位体比マッピング
    (◎伊永隆史,中下留美子,鈴木彌生子,武蔵正明,清水千明/首都大学東京大学院理工学研究科)
  • 有機分子の安定同位体比コントロール法の確立
    (◎伊永隆史,赤松史一,一宮孝博,山本真由/首都大学東京大学院理工学研究科)

研究の内容及び主要成果

  • 多元素の安定同位体比分析を用いた天然レベル安定同位体比マッピング
    農水産物・食品等に生育環境情報として化学指紋のように残る安定同位体比を、軽元素4元素(13C/12C, 15N/14N, 18O/16O,D/H) についてさまざまな組み合わせで二次元マッピングやマルチダイアグラム表示により、国内で2000試料収集したコメ、牛肉、ウナギ等農水産物の産地判別情報を視覚化・差別化できることを初めて見出した。
  • 有機分子の安定同位体比コントロール法の確立
    食品中の特定有機分子の安定同位体比を人工的に僅かにコントロールするターゲットとしては、アミノ酸(特にグルタミン酸、フェニルアラニン)が有力な候補であることを実証した。さらに農水産物の産地識別化を目的として超微量に標識する研究は報告例がなく、農水産物の安心安全な流通管理の新技術として革新的といえる。

見込まれる波及効果

多元素安定同位体比解析により農水産物バルク試料の産地判別技術を確立したことは食品の産地偽装防止に役立つ。産地は消費者が食品を購入する判断基準の1つであり、科学的根拠に基づいた不正を起こせない産地表示の開発は国民の食の安心安全を守る役割となることから、安定同位体比が産地判別技術の決め手になると考えられる。

主な発表論文

  • Suzuki, Y., et al.: Geographical origin of polished rice based on multiple element and stable isotope analyses. Food Chemistry, 109: 470-475 (2008)
  • Nakashita, R., et al.: Stable carbon, nitrogen, and oxygen isotope analysis as a potential tool for verifying geographical origin of beef. Analytica Chimica Acta,618: 148-152 (2008)
  • Yamamoto, M., et al.: Application of chromatography/combustion/isotope ratio mass spectrometry for stuying nutrition and biosynthesis in plants. Chemistry Letters,38:696-697(2009)
  • 中下留美子他: 生元素安定同位体比解析による養殖ウナギの産地判別の可能性. 日本食品科学工学会誌.56:495-497 (2009)

研究のイメージ

超微量安定同位体検出技術を応用した農水産物の新トレーサビリティ分析システムの開発