生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 研究成果

脳機能モニタリングを活用した高度食味プロファイリングシステムの構築

研究の目的

高品質食品・農産物の開発には、官能評価などヒトの感覚に基づいた食味プロファイリングが必須となる。しかし、高度な技術力を持つ食味プロファイラーの養成には長い時間と費用がかかる。そこで、脳機能イメージング法や認知科学的な計測手法を用いて、食味プロファイリングという高度な能力の背景に潜む、感覚・認知処理過程の重要構成要素を抽出する。これらの構成要素について、食味プロファイリングにおける基本的役割を解明し、食味プロファイリングの脳・神経科学的な基盤を確立する。その成果を踏まえ、食味プロファイリングという作業に必要な脳機能を高めるためにはどのようなトレーニングが有用であるかを明らかにし、実用上の観点から優れた食味プロファイラーを効率的に養成するためのシステムを提案する。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 高度食味プロファイリングにおける脳内感覚処理の研究
    (小早川達/独立行政法人 産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門)
  • 食味に関する高次脳機能研究と高度食味プロファイリングシステムの構築
    (◎檀一平太/独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 食認知科学ユニット)

研究の内容及び主要成果

  • MEG(脳磁計測)による感覚処理の脳機能解析によって、味の強さが生まれるのは、従来考えられていた一次味覚野でなく、より高次の脳機能ネットワークの働きによることが明らかになった。
  • fNIRS(機能的近赤外分光分析法)による高次脳機能解析によって、食味の記憶時の脳活動パターンが、エキスパートの能力を反映していることが分かった。
  • 高度に訓練された官能評価専門パネルの能力は、食味濃度の判別における確度と真度というパラメターに反映される。
  • 食味の認知処理特性から判断すれば、食味プロファイリングの能力を向上させるためには、フィードバックトレーニングが効果的である。

見込まれる波及効果

本研究は、食味プロファイリングという作業において、これまでブラックボックスとして扱われていたヒトというバイオセンサーの仕組みを客観的に描写し、そして、センサーを構成する重要パーツに関するトレーニング法の原理を提唱した。これまで、エキスパートの食味プロファイリング能力は特定の評価に特有と考えられていたが、本研究は、その汎用性を示唆した。すなわち、特定の食品会社などに散在していた官能評価専門パネル等の「人財」を異なる分野の食品・農水産物開発などに遍く活用することが有益である。本成果の活用によって、様々な食品・農水産物の評価に関わる食味プロファイラーの効率的育成が可能となり、汎用的な能力を有するエキスパート集団の増大によって、我が国の農水産物・食品開発能力が向上することが期待される。

主な発表論文

  • Okamoto M., et al. : Structural atlas-based spatial registration for functional near-infrared spectroscopy enabling inter-study data integration. Neuroscience Letters451 : 129-133 (2009)
  • Okamoto M., et al. : Influences of food-name labels on perceived tastes. Chemical Senses 34 : 187-194 (2009)
  • Okamoto M., et al. : Structural atlas-based spatial registration for functional near-infrared spectroscopy enabling inter-study data integration. Clinical Neurophysiology 120 : 1320-1328 (2009)
  • Kmura Y., et al. : Consumer valuation of packaged foods. Interactive effects of amount and accessibility of information. Appetite 51 : 628-634 (2008)
  • Kobayakawa T., et al.: Representation of salty taste stimulus concentrations in the primary gustatory area in humans. Chemosensory Perseption 16 : 227-234 (2008).

研究のイメージ

脳機能モニタリングを活用した高度食味プロファイリングシステムの構築