生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2002年度 採択された研究課題

植物細胞の増殖と分化を制御する分子的ネットワーク

研究代表者氏名及び所属

町田 泰則
町田 泰則(名古屋大学大学院理学研究科)

研究実施期間

平成14年度~18年度(5年間)

研究の要旨・概要

植物細胞の分裂の制御機構を理解することは、植物体の成長や分化の仕組みを知る上で重要なだけでなく、植物を分子遺伝学的に育種することにも直結している。しかし、細胞分裂の仕組みについての我々の知識は、まだ極めて限定されたものである。特に、植物の細胞質分裂は、動物や酵母とは異なるプロセスで進行しており、どのような仕組みが関与しているのか、まだほとんど分かっていない。
最近、我々は、NACK1と NACK2と命名したキネシン様蛋白質とNPK1 と命名したマップ・キナーゼ・キナーゼ・キナーゼ(MAPKKK)の複合体が、植物の細胞質分裂・細胞板形成(細胞分裂の最終段階)を正に制御していることを見つけた。さらに、植物個体の中でこれらの因子の機能が損なわれると、孔辺(気孔)細胞の分裂のみならず細胞の分化も異常になることがわかった。動物では、キネシン様タンパク質とは神経細胞などで働いているタンパク質であり、また MAPKKKは細胞の外からの刺激を内側に伝える時に働いているタンパク質である。このような二つのタンパク質が複合体を作り植物の細胞板形成を制御していることは予想外のことであった。本研究では、このような成果を踏まえ、(1) 植物の細胞質分裂に関わる制御系の中心的な因子を、生化学、細胞生物学、分子遺伝学的方法を駆使して同定・単離し、制御系の全体像を解明すること、(2)これらの因子が細胞の分化にどのような影響を与えるのかを解析し、細胞分裂と分化の接点がどのように調節されているかを解明すること、を目的としている。
さらに、我々が発見したNACK1 (あるいは NACK2) とNPK1の複合体の機能を阻害すると、細胞が極端に巨大化することから(図参照)、(1) で得られるであろう成果は、植物細胞の大きさを人工的に制御できるような手法の開発につながる可能性があり、新しい育種の基礎を提供すると期待される。

研究項目及び実施体制

  • タバコを用いた生化学的・細胞生物学的な解析
    (名古屋大学大学院理学研究科 町田 泰則)
  • シロイヌナズナを用いた分子遺伝学的な解析
    (名古屋大学大学院理学研究科 征矢 野敬)

研究のイメージ

植物細胞の増殖と分化を制御する分子的ネットワーク