プレスリリース
昆虫感染防御系における病原体認識蛋白質の多様な役割を解明ーPGRP-LEの新たな機能ー

情報公開日:2006年6月12日 (月曜日)

生物系特定産業技術研究支援センター
東北大学大学院薬学研究科

要約

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センターは、「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」(プログラムディレクター桂直樹理事)における研究課題「昆虫が有する病原体認識システムの解明とその利用」(研究代表者:倉田祥一朗・東北大学大学院薬学研究科)の研究成果として、昆虫の病原体認識蛋白質が感染防御において多様な役割を有していることを立証しました。本研究成果の詳細は、米国の科学雑誌「Nature Immunology」オンライン版(6月11日)に掲載されます。

成果の内容

昆虫が示す病原体の感染防御において、細胞外(血液中)で病原体構成成分を認識するPGRP-LEが、細胞表面では 細胞膜上に存在する同じPGRPファミリー分子であるPGRP-LCの共受容体として病原体構成成分の認識に関わること、さらに、PGRP-LEは、細胞内においても病原体構成成分の認識に関わることを明らかにした。加えて、PGRP-LC と PGRP-LE は RHIM-like モチーフと名付けた類似した構造を有しており、このモチーフが感染防御反応の誘導に重要であることを示した。病原体認識分子が、想像を超えて多様な役割を果たしていることを示す研究であり、感染防御機構の解明に新たな視点を提供した。

これらの成果は、食品衛生管理や医療検査における病原体検出キットの提供、昆虫媒介性伝染病対策等を可能にする耐病性制御による昆虫管理、あるいは、昆虫産業から畜産・養殖産業など多岐にわたる感染防御技術としての活用が期待できる。

論文題目

PGRP-LC and PGRP-LE play essential yet distinct roles in the drosophila immune response to monomeric DAP-type peptidoglycan
(Nature Immunologyオンライン版 6月11日)
「PGRP-LCとPGRP-LEはDAP型モノメリックペプチドグリカン(病原体構成成分)に対するショウジョウバエの感染防御反応に必須であるが、お互いに別個の役割を担う」

用語説明

PGRP(ペプチドグリカン認識蛋白質)ファミリー分子:
昆虫の示す感染防御系において、ほとんどすべての細菌が有する細胞壁構成成分であるペプチドグリカンを認識する病原体認識蛋白質ファミリー。ショウジョウバエでは、このファミリーに属するPGRP-LCとPGRP-LEが主にグラム陰性菌が有するDAP型ペプチドグリカンを認識し、PGRP-SAとPGRP-SDが多くのグラム陽性菌が有するリシン型ペプチドグリカンを認識する。それぞれ、進化的に保存されているimd経路とToll経路を活性化し、感染防御を行う。
これまで、PGRP-SA,-SD,-LEは血液中で病原体の認識を行い、PGRP-LCは細胞表面で病原体の認識を行うことが明らかにされていた。