生物系特定産業技術研究支援センター

(26105C) 品質・収量の高位安定化が可能なビール醸造用大麦品種の開発

事業名 イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)
実施期間 平成26年~30年(5年間)
研究グループ
(研究終了当時)
栃木県県農業試験場、福岡県農林業総合試験場、サッポロビール株式会社、アサヒビール株式会社、栃木県経営技術課、農研機構次世代作物開発研究センター、キリン株式会社、サントリーモルティング株式会社、 全国農業協同組合連合会栃木県本部
作成者 栃木県農業試験場 加藤 常夫

1 研究の背景

生産側からは被害粒発生への対応が、実需側からはビール鮮度が劣化しにくい香味安定性に優れた低リポキシゲナーゼ(LOX)品種が強く望まれていた。そこで、栽培性が優れ、低LOX特性を持つ新品種の育成を目指した。

2 研究の概要

優れた栽培特性と麦芽品質特性を持つ新品種を育成し、実需者による評価試験を行うと共に、高品質安定生産栽培法の確立と栽培マニュアルの策定を行い、新品種の普及を支援する。

3 研究期間中の主要な成果

  • 「サチホゴールデン」に低LOX特性を導入した準同質遺伝子系統「ニューサチホゴールデン」を育成すると共に、高品質安定多収栽培法を確立して「栽培マニュアル」を3,600部作成・配付し、普及活動に役立てた。
  • 被害粒の発生が少なく、国内全てのオオムギ縞萎縮ウイルス系統に抵抗性を有する「はるさやか」を育成すると共に、高品質安定多収栽培法を確立して「栽培リーフレット」を作成し、普及活動に役立てた。
  • 「ニューサチホゴールデン」の低LOX特性がビールの香味安定などに大きく貢献することを明らかにした。

4 研究終了後の新たな研究成果

  • 温暖地向け有望系統「栃木二条54号」と「栃木二条56号」、暖地向け有望系統「九州二条27号」の開発
  • 「ニューサチホゴールデン」の改善窒素施肥法の開発

5 公表した主な特許・品種・論文

  • 品種登録出願29510 大麦品種「ニューサチホゴールデン」を品種登録出願(H26年9月) (出願者名:栃木県)
  • 品種登録出願32979 大麦品種「はるさやか」を品種登録出願(H30年3月)(出願者名:福岡県)
  • Oozeki, M. et al. The two-row malting barley cultivar 'New Sachiho Golden' with null lipoxygenase-1 improves flavor stability in beer and was developed by marker-assisted selection. Breed. Sci. 67, 165-171 (2017)

6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • 「ニューサチホゴールデン」の作付面積が令和2年播きで8,223haに普及拡大し、栃木県のビール用大麦がすべて本品種に切り替わった。現在は栃木県以外の採用をビール大麦合同比較試験を通して支援している。
  • 「はるさやか」は令和2年播きで59ha作付けされた。令和元年に契約対象の指定品種に格付けされ、現在、福岡県で普及推進している。同時に、ビール大麦合同比較試験を通して西日本(暖地)生産県での採用を支援している。

(2) 実用化の達成要因

ビール会社による詳細な評価試験と、大規模製麦・醸造試験を通して醸造品質の実用性を最終評価した。その後は栽培マニュアルを活用するなど、研究、行政、普及、生産団体、実需等が一体となり、計画的に推進した。

(3) 今後の開発・普及目標

当面(3~5年後)は「ニューサチホゴールデン」と「はるさやか」の普及目標を合計10,000haとする。同時に両品種の長所を維持しつつ気象変動に強い生産安定型の多収品種を開発し、順次切り替える。

7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

実需者ニーズに対応した高品質な国産ビール大麦の安定供給は、国産原料の信頼度アップと地位向上に繋がる。栽培性の優れる品種の普及・拡大は、農家の所得向上に直結し、我が国の農業の持続的発展に貢献する。

(26105C) 品質・収量の高位安定化が可能なビール醸造用大麦品種の開発