生物系特定産業技術研究支援センター

(23060) リンゴ、ナシ産地を蝕む「ヒメボクトウ」に対する複合的交信かく乱防除技術の開発

事業名 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ)
実施期間 平成23年~25年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
千葉大学大学院園芸学研究科、徳島県立農林水産総合技術支援センター、山形県農業総合研究センター 園芸試験場、福島県農業総合センター 果樹研究所、信越化学工業(株)合成技術研究所、農研機構果樹研究所リンゴ研究拠点
作成者 千葉大学 中牟田 潔
連絡先 千葉大学 グランドフェロー 中牟田 潔
メール : nakamuta[アット]faculty.chiba-u.jp ※[アット]を@に置き換えてください

1 研究の背景

2005年に徳島県のナシ栽培地帯でヒメボクトウ幼虫による樹体への穿孔被害が初めて確認された。その後、ヒメボクトウ幼虫によるナシやリンゴへの被害が東北地方および関東地方を中心に急速に拡大・増加しており、枝幹の枯損、収量の低下、さらには果樹栽培農家の生産意欲低下をもたらしている。ヒメボクトウ幼虫は樹幹の内部に穿入し、長期間加害するため防除が困難であり、新たな被害低減技術の開発が早急に求められている。

2 研究の概要

ヒメボクトウの性フェロモンを用いた交信かく乱によるヒメボクトウ被害の低減効果をナシ園とリンゴ園にて実証し、その結果をもとに農薬登録を申請し、本技術の実用化に至った。

3 研究期間中の主要な成果

ナシ園、リンゴ園におけるヒメボクトウの被害低減を可能にする、性フェロモンを利用した交信かく乱剤の農薬登録を申請するとともに、かく乱剤の利用技術を開発した。

4 研究終了後の新たな研究成果

徳島県では交信かく乱剤を継続して処理したナシ園における被害推移を研究終了後も独自に継続調査している。その結果、2014年→2017年の被害樹率が、多発園41%→10%、中発園4.9%→0%、少発園1.5%→0%といずれも減っており、本交信かく乱剤の効果の高いことが示された。

公表した主な特許・品種・論文

Hoshi et al. Mating disruption of a carpenter moth, Cossus insularis (Lepidoptera: Cossidae) in apple orchards with synthetic sex pheromone and its registration as an agrochemical. J. Chem. Ecol. 42:606-611. (2016).

5 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • 開発した交信かく乱剤の農薬登録が2015年に認められ、実用化に至った。
  • その後、リンゴ、ナシ栽培が盛んでヒメボクトウ被害の多い福島県、徳島県、岩手県、山形県、石川県、茨城県において200 haほどのナシ園およびリンゴ園に普及している。

(2) 実用化の達成・普及の要因

性フェロモンの化学構造がすでに決定されていたこと、ナシ園およびリンゴ園における交信かく乱効果を確認したこと、これらをもとに交信かく乱剤の農薬登録ができたことが、達成要因である。

(3) 今後の開発・普及目標

技術としては完成しており、新たな研究要素はないが、既被害地において被害低減効果が示されているので、新たな被害地や再発生地が出現した場合、即座に利用される可能性が高いと期待される。

6 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

性フェロモンを用いた交信かく乱技術を開発した成果は、交信かく乱剤の市販後ナシ、リンゴ栽培地帯の被害地域において速やかに普及し、各地の防除暦にも組み込まれ、数年で被害が見られなくなった地域も出現した。

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