生物系特定産業技術研究支援センター

(23052) 高泌乳牛における泌乳平準化を図る新たな周産期栄養管理技術の開発

事業名 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ)
実施期間 平成23年~25年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
広島大学、農研機構(畜産草地研究所、北海道農業研究センター)、千葉県畜産総合研究センター、群馬県畜産試験場、栃木県畜産酪農研究センター、富山県農林水産総合技術センター、全国酪農業協同組合連合会
作成者 広島大学大学院生物圏科学研究科 杉野 利久
連絡先 広島大学大学院生物圏科学研究科 杉野 利久
電話 : 082-424-7956
メール : sugino[アット]hiroshima-u.ac.jp ※[アット]を@に置き換えてください

1 研究の背景

泌乳初期では、泌乳に伴う栄養要求量の増加と乾物摂取量のアンバランスから代謝障害が起こりやすい時期であり、分娩後に過剰な体脂肪動員が生産性や繁殖性の低下をもたらしている。

2 研究の概要

高泌乳牛の泌乳平準化のための乾乳期における適正な栄養水準を明らかにする。それに基づいた新たな周産期栄養管理技術を開発し、代謝・繁殖障害を軽減し生涯生産性の向上を図る。

3 研究期間中の主要な成果

  • 乾乳前期(40日間)における20%程度の栄養制限は、分娩後の乳量を抑制し緩やかに増加させた。泌乳持続性も向上した。繁殖成績においては、初回排卵が早まる傾向を示した。
  • 乾乳前期をTDN要求量の80%として粗飼料主体型乾乳期用混合飼料を用いて管理した乳牛について、乾乳後期(20日間)を120%とすると、分娩後の飼料摂取量が高まり、繁殖性を改善する可能性が示された。
  • 乾乳前期をTDN要求量の80%として粗飼料主体型乾乳期用混合飼料を用いて管理した乳牛について、乾乳後期に中鎖脂肪酸カルシウムを添加給与すると、分娩後の乳量が7kg/日程度増加した。

4 研究終了後の新たな研究成果

  • 乾乳期を1群として45日間、粗飼料主体型乾乳期用混合飼料を用いてTDN要求量90%で管理した場合も同様に、泌乳初期の乳量を高めることが示された。
  • 研究期間中に乳量を高める可能性が示された中鎖脂肪酸カルシウムに関して、泌乳中後期牛へ添加給与した結果、乳量が3kg/日程度高まり泌乳持続性が向上した。

公表した主な特許・品種・論文

  • Hirabayashi, H. et al. Effect of nutrient levels during the far-off period on postpartum productivity in dairy cows. Anim Sci J. 88(8) , 1162-1170 (2017).
  • 杉野利久他. 泌乳期の生産性に直結する乾乳期の栄養管理. 日本胚移植学雑誌38, 83-86 (2016).

5 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • 関東を中心に粗飼料主体型乾乳期用混合飼料(ドライコンプリート)を供給している。供給トン数は平成29年度で342.72トンであり、得られた研究成果の普及により開始前と比べ供給量が1.8倍となっている。
  • 同様のコンセプトで調製された乾乳期用混合飼料が南九州圏で供給開始されている。

(2) 実用化の達成・普及の要因

最近の担い手不足や酪農場の大規模集約化に伴い、従来の飼養管理法(分離給与)では限界が来ていたため、ドライコンプリートの供給により労働力を軽減しつつ健全に乳牛を管理できることが達成要因と考える。

(3) 今後の開発・普及目標

乳用牛の改良により飼養標準等の改訂が定期的に行われることから、それに併せてドライコンプリートの改良を検討するとともに、各地域のTMRセンターに乾乳期の重要性を普及することで生産拡大を目標とする。

6 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

北米において先行していた乾乳期栄養水準および乾乳期用混合飼料の国内普及につながったとともに、酪農場の省力化に貢献できた。

九州における飼料生産組織、TMRセンター、子牛育成センターが連携する地域分業化大規模肉用牛繁殖経営の実証