生物系特定産業技術研究支援センター

(26066B) 卵受精保持能,子宮・卵管内精子運動調節機構に着眼した効率的ブタ人工授精法の開発

事業名 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(発展融合ステージ)
実施期間 平成26年~28年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
広島大学、大分県農林水産研究指導センター
作成者 広島大学大学院 生物圏科学研究科 島田 昌之
連絡先 広島大学大学院 統合生命科学研究科 島田 昌之
電話 : 082-424-7899
メール : mashimad[アット]hiroshima-u.ac.jp ※[アット]を@に置き換えてください

1 研究の背景

ブタの人工授精技術は、生産頭数の7割程度にまで普及してきたが、精液の採取・希釈・保存は煩雑であり、1発情あたり3回以上の精子注入を必要とするなど、技術革新が必要である。

2 研究の概要

品種や季節による発情への影響と人工授精後の子宮内精子の生存時間を延長させる環境を解明し、人工授精回数を3回から2回へ、注入精子数を大幅に削減する新規人工授精プログラムを開発した。

3 研究期間中の主要な成果

  • 光環境による母豚の内分泌制御機構を解明し、閉鎖型豚舎においてLEDによる光線管理により種付け適期を周年2回に固定化し,かつ産子数が3.8%増加する繁殖管理法を確立した。
  • 子宮内環境で精子が長時間正常性を担保するメカニズムを解明し、注入精子数を目標値を上回る10億に削減しても既存技術(精子数30~50億)と同等の繁殖成績が得られた。

4 研究終了後の新たな研究成果

  • 精子のミトコンドリアにおける酸化メカニズムを解明し、ミトコンドリアゲノム、ミトコンドリア特異的な転写因子とRNA合成酵素の安定性が精子の運動時に酸化ストレスにより著しく低下することを明らかとした。
  • ミトコンドリア内で働く抗酸化因子を探索し、細胞膜とミトコンドリア膜の通過性に富み、安定化に寄与する抗酸化因子を同定し,より少ない精子数での人工授精を可能とする基盤を形成した。

公表した主な特許・品種・論文

  • 特願 2018-132507 精子の妊孕力増進剤 (出願人 : 国立大学法人 広島大学,ロート製薬株式会社)
  • Zhu Z. et al. Gene expression and protein synthesis in mitochondria enhance the duration of high-speed linear motility in boar sperm. Frontiers in Physiology (2019).

5 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • 光線環境管理による人工授精適期誘導法:全国の養豚場で種付け豚舎をLED照明に変更され始めており、すでに母豚数10万頭以上に普及している。この数値は、日本全体の10%を超える普及率となっており、将来像として描いた達成目標を超えている。
  • 新たな凍結精液作成法:大分県は、本技術を用いて凍結精液の受託製造を実施している。広島大学発ベンチャーが、遺伝資源保存用として,国内で唯一のブタ凍結精液作成用溶液として販売している。

(2) 実用化の達成・普及の要因

養豚業界の業界誌に複数回寄稿している。また、展示会のセミナー、養豚協会や産業獣医師会などの団体での講演、飼料会社の勉強会、雑誌社が主催するセミナーで成果発表を行っている。

(3) 今後の開発・普及目標

国内の約半数で使用されるに至った広島大学開発の希釈液をベースにして、より少ない精子数で十分な繁殖成績が得られる技術革新を行い、価格上昇に見合う成績が得られるかの実証試験を行う。

6 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

本研究で開発した繁殖管理法は、多大な設備投資も必要とせずにコスト削減と生産頭数増加を可能とすることで、日本の養豚業の国際競争力を高め、安全・安心・高品質な国産豚肉を消費者に提供する。

九州における飼料生産組織、TMRセンター、子牛育成センターが連携する地域分業化大規模肉用牛繁殖経営の実証