研究代表者氏名及び所属
藤井 義晴(東京農工大学)
総合評価結果
優れている
評価結果概要
(1)全体評価
本研究課題は、他生物の生長の阻害、促進、その他の影響を及ぼすアレロパシー(他感作用)の強い植物を探索すること、および、それら植物がもつアレロケミカル(他感物質)の構造相関研究から新たな除草剤開発の素材となる可能性のある化合物(リード化合物)を探索すること、さらに、このような植物を植生管理に利用することを目的に実施された。最初の探索研究では、多数の植物を対象に調査を行い、この中から18種の新規アレロケミカルを同定した。また、ヒマワリやセイタカアワダチソウ等に含まれるアレロケミカル24種の完全有機合成に成功した。さらに、その他のアレロケミカルを含めて、多様な類縁体を合成するとともに生物検定を行い、ユキヤナギのアレロケミカルであるシス桂皮酸の誘導体の中から、有望なリード化合物2種を見いだした。また、世界に先駆けて、アレロケミカルの作用機構を遺伝子レベルで解析し、重要な知見を得た。その他、圃場試験によって、シラン、エンバク野生種等のアレロパシー植物は、植生管理に実用的に利用できることを実証した。このように本研究は、各中課題を担当する研究者がそれぞれの専門性を活かし連携を図りながら実施した結果、研究計画に沿って順調に進捗し、多くの優れた成果を得ることができた。また、特許出願件数は目標に達しなかったが、得られた研究成果は、多くの質の高い論文として発表された。これらのことから、本研究を高く評価する。
(2)中課題別評価
中課題A「新規生理活性物質の単離同定と作用機構の検証」
((独)農業環境技術研究所→東京農工大学 (H24) 藤井 義晴)
本中課題では、ペルー、マレーシア、イラン等の海外を含めた約660種の植物を調査し、この中から18種の新たなアレロケミカルを同定した。また、アレロケミカルの作用機構を解明するためにマイクロアレイを用いた解析を行い、シス桂皮酸は、オーキシン応答遺伝子群の一部を根において特異的に活性化し、これによって植物の生長制御機構をかく乱させている可能性の高いことを示した。このようなアレロケミカル作用の分子機構の解明に迫った研究成果は、世界初である。さらに、圃場試験によって、シラン、ヤブラン等が雑草抑制効果をもつこと、ヘアリーベッチ、エンバク野生種の単植および混植がほぼ完全に雑草発生を抑制すること等被覆植物の実用化に向けた成果を得た。その他、これまでの研究を含め、約4,000種の植物のアレロパシーに関するデータベースを構築した。このように、この中課題では、科学的に優れ、また、生物系特定産業への寄与も期待される多くの成果を得た。研究成果の論文発表等の情報発信も適切に行われていることから、本中課題の研究を高く評価する。
中課題B「セスキテルペン類及びハイブリッド天然物の有機合成」
(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 宍戸 宏造)
本中課題では、被覆植物としてミカン園等の雑草管理に使われている、ナギナタガヤ(イネ科)由来のアレロケミカルであるイオノン型テルペノイド(2種)の全合成に成功した。また、ヒマワリ由来のヘリアナン型セスキテルペンおよびザンタノリド型セスキテルペン、アオカビ属由来のブレビオン等の多数の化合物の全合成に成功した。これらに基づいて、上記物質の類縁化合物の誘導体合成を行い、多様な化合物ライブラリーを構築した。さらに、ザンタノリド型セスキテルペン誘導体の中で生物活性が認められたオキサゾリジノンの新しい合成法を開発した。また、ヨードを含むアレロケミカル誘導体の合成および活性評価を行い、レタス幼根に対し強い生長阻害効果をもつ化合物を見いだした。本研究で新たに開発された合成手法、これを用いた天然化合物の全合成、構造比較に基づく活性強化のための構造修正等の成果は、今後、科学技術や生物系特性産業のみならず医薬等他産業にも寄与することが期待される。また、本課題の成果は、インパクトファクターの高い雑誌に質の高い論文として、研究終了時までに、50報近くときわめて多数発表されている。これらのことから、本中課題の研究を特に高く評価する。
中課題C「アレロケミカルの構想活性相関とプローブ分子の合成」
(九州大学先導物質化学研究所 新藤 充)
本中課題においては、シス桂皮酸の構造活性相関および蛍光プローブを用いた作用機構に関する研究を行った。また、ユキヤナギ由来のカリキノライド(ブテノライド)類、オナモミ由来のキサントシジン等の新しい合成法を開発し、多くの誘導体を合成した。特に、シス桂皮酸については、目標値の50種類を大きく上回る、250種以上の誘導体の合成に成功した。また、これら化合物の活性評価を実施した結果、その中から、市販の除草剤に近い活性をもつ化合物を見いだした。さらに、シス桂皮酸の植物生長阻害活性の作用機構の解析を行い、シス桂皮酸がレタスの根幹部の特定細胞(コルメラ細胞)において細胞小器官のアミロプラストに局在して作用すること、また、重力屈性に関わっている可能性のあることを示すとともに、シス桂皮酸と結合する特異的なタンパク質を数種類見出した。このように、本課題の研究は、当初計画に示された目標以上の成果が得られており、成果は生物系特定産業への寄与が期待される。本課題の成果は、インパクトファクターの高い雑誌に質の高い論文として発表された。これらのことから、本中課題の研究を特に高く評価する。