生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 終了時評価結果

自然免疫修飾による健康増進を目指した高機能食品開発の試み

研究代表者氏名及び所属

岩倉 洋一郎(東京理科大学 生命医科学研究所)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

 (1)全体評価 

本研究は、微生物等の持つβグルカン(BG) 等の多糖成分の分子構造や、生体側の認識受容体を介した自然免疫賦活化の分子機構を明らかにし、それを利用した高機能食品を開発するための科学的根拠を確立する目的で実施された。

この研究は、各種関連遺伝子欠損マウスをツールとして利用し、BG等を認識する受容体とそれを介した免疫情報伝達経路、さらにはその伝達機構を活性化するための活性化因子および抑制機構を分子生物的および免疫学的に明らかにした。多糖受容体シグナルを介する生理機能の解明により、これらの受容体のリガンドの検索が可能な評価系の構築につながった。またそれらの評価系を用いることで、今までとは異なった観点からの機能成分が見いだされる可能性を含んでおり、本研究の成果が研究および産業におよぼす影響は予測できない位大きい可能性を秘めている。一方、基礎的な研究成果と新規機能食品開発研究との連携の弱さや、出願特許の少ないことが指摘された。

以上の通り、本課題は指摘された弱点は有するものの、全体としては目標を上回る成果が豊富に得られており、総合的には高く評価した。

 

 (2)中課題別評価

中課題A「糖鎖認識受容体シグナルによる自然免疫賦活機構の解析」

(東京理科大学生命医科学研究所 岩倉  洋一郎)

免疫賦活および免疫抑制効果のメカニズム解明を目指した本中課題は、自然免疫系におけるC型レクチン様受容体ファミリーメンバーに着目し、関連する各種遺伝子欠損マウスや疾患モデルマウスを積極的に取り入れた解析を推し進め、Dectin-1(β-グルカン受容体)および2(α-マンナン受容体)を介した免疫細胞賦活化の情報伝達機構を明らかにし、Dectin-1シグナルを阻害することで、炎症応答は抑制されるが、一方で腸管腫瘍形成が促進すること等を明らかにした。また、Dectin-2に関しては、真菌感染予防に寄与するが、腸炎には関与していない事実や、Dcir(樹状細胞機能調節受容体)の食品に含まれるリガンドの解明に成功した。しかし、これらの成果の高機能食品開発への活用が弱かった。

以上、一部に連携の弱点があるものの、全体として目標を上回る優れた成果が多く得られており、高く評価した。

 

中課題B「微生物由来の高機能性分子物性評価法の開発と構造活性相関の検討」

(東京薬科大学薬学部 大野  尚仁)

プロジェクト全体の中で素材供給とその分析に関する役割をしっかり果たした。主な成果である、βグルカン構造の多様性を区別するためのモノクローナル抗体や可溶性Dectin-1 Fc(抗体)融合タンパク質等の作成により、βグルカンの分岐構造や螺旋構造あるいは粒子構造を評価する方法を開発した。また、C型レクチン様受容体のリガンドという観点から、高機能食品素材の高効率なスクリーニング法を見いだした。さらに、重合ポリフェノールが樹状細胞を活性化することおよびその活性化機構を解明したが、本成果は大課題全体の取り組みにならなかった。

以上の様に、本中課題については、一部に目標達成が不充分な部分があるが、全体としては多くの目標を達成する結果を得ており、ほぼ予定通りの達成状況であると判断した。

 

中課題C「消化管免疫細胞の活性化と機能成熟機構の解明」

((独)産業技術総合研究所年齢軸生命工学センター 辻 典子)

 本中課題は、メカニズム解明を中心とした基礎研究分野を担当した。本課題では腸管免疫を活性化する食品成分を探索できる系を構築したが、この系を用いることで、食品による炎症性腸疾患の抑制・寛解ができる可能性がある。また、ガゴメ粉末によって感染予防が期待される成果については、水産業への波及が期待できる。ここでは、BG経口摂取による免疫修飾作用のメカニズムの一端を明らかにし、設定された目的の大部分は達成されたと判断される。しかし、メカニズム全体の解明やガゴメの活性因子解明等は、最終的に今後の課題として残された。

  以上の通り、本課題については、一部に課題が残されたものの、全体としては目標を上回る成果が得られており、総合的には高く評価した。

 

中課題D「自然免疫賦活能を持つ高機能性食品の評価法の確立と商品開発」

(日生バイオ(株)北海道研究所 杉 正人)

  本課題は、素材の製造方法として、メシマコブ菌体の高収量が可能となる培養法の改良等を行い、安価で高い免疫賦活活性を有する菌体の培養方法や、担子菌を用いたBGを高含有させる培養法を確立し、その免疫賦活活性等を評価した。また、ヒトモニター試験を行い、ヒトに対しての有効性の確認も試みた。しかし、実際の試験には混合物が使われる等の問題点があり、また商品開発の点では、ヒトモニター試験で効果が見られなかった。他にも、取り組みがやや不充分な部分があり、特許の出願件数が少なかった。

以上の通り、本中課題は目標未達成の部分があるが、担った役割にほぼ相応しい成果を挙げたものと評価した。