研究代表者氏名及び所属
村上 昇(宮崎大学農学部獣医学科)
総合評価結果
当初計画通り推進
評価結果概要
(1)全体評価
本研究は、動物の恒常性維持機構をエネルギー代謝、特に摂食、運動、脂質・アミノ酸代謝、肥満などをキーワードとして解明し、またそれらの調節や恒常性破綻に関わる原因物質をモデル動物を対象に探索し、その成果を家畜の増体や乳量増加などへ応用することを目的とするものである。
チャレンジングな研究であり、いくつかの新知見が加えられたが、グレリン、レプチン、ニューロメジンSの各々の作用ならびに肥満マウスについては、これまでの知見に比べて進展はあまり見られない。走行中枢の研究においては新しい成果が得られたが、グレリン、レプチン、ニューロメジンSがどのようなクロストークによって走行を制御しているのか、また、どのように増体に関与しているのかについては、当初の目標までには至っていない。一方、マクロファージを介するグアニリン/GC-Cによる脂肪蓄積制御に関するマウスを用いた知見は評価できる。これが反芻動物であるウシに外挿できるかについて明らかすることは本研究の使命でもあるので、可能性の段階で終わるのは惜しい。
研究成果の多くはインパクトファクターの高い国際誌に公表され、かつ特許出願も積極的にされており、評価に値する。また、学会においても数多く発表が行われており、研究代表者らの基礎研究における努力は高く評価できる。しかし、本研究費の金額の大きさ、5年という長期間に対する最大の回答は実用化に向けた具体的な提言を行うことであったはずである。その点に積極的に踏み込んでいないのは残念である。
(2)中課題別評価
中課題A「動物の摂食・代謝・運動・熱生産のクロストークの解析」
(宮崎大学農学部獣医学科 村上 昇)
走行運動中枢の局在部位の研究においては新しい成果が得られた。また肥満と走行運動との相反関係と、それらに対するレプチンの関与は新知見として評価できる。一方、当初の研究計画にあるグレリン、レプチン、ニューロメジンSがどのようなクロストークを形成しているのかについての具体的な成果は得られなかった。研究の前半は中課題Bと連携で研究を行っていたが、後半に中課題Bが中止された後はそれも抱え込むこととなった。多くのことが盛り込まれすぎたために、消化不良になっている点が多々見られる。多くのターゲットは多くの論文を生んだが、実用化を遠ざけたという感想を持つ。
研究成果の多くはインパクトファクターの高い国際誌に公表され、かつ特許出願も積極的に行われている。学会でも数多く発表が行われており、研究代表者らの基礎研究における努力は大いに評価できる。しかし、当初の研究目標は基礎研究の成果を基に、実用化に向けた具体的な提言を行うことであったはずであり、その点に積極的に踏み込んでいないのは残念である。
中課題C「食行動を制御する臓器間クロストーク機構の解明」
(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 伊達 紫)
エネルギ-恒常性維持と神経系との関わりについてラットを用いて調べたところ、摂食における視床下部内の重要な酵素であるAMPキナーゼが摂食において決定的な役割を果たすこと、延髄から視床下部への神経回路の遮断が食餌摂取を増やし増体の期待が高まること、さらに、マクロファージのグアニリン/GC-Cが脂肪蓄積に大きく関わることなどを明らかにした。これらの成果は、基礎的な研究としての価値が高く、評価できる。
このように、摂食関連ペプチドが神経系を主な情報伝達経路として作用していること、およびその機序を明らかにした点は高く評価できるが、その知見がどのように日本の畜産業あるいは畜産振興に役立つかは不明である。また、中課題Aとの関連性や整合性が判然としない点が見られるのは残念である。