生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 終了時評価結果

牛の難治性疾病に対する新規ワクチン戦略

研究代表者氏名及び所属

今内 覚 (北海道大学大学院獣医学研究科)

総合評価結果

  優れている

評価結果概要

 畜産業界に多大の被害をもたらしている牛白血病は、ワクチンによる予防が最も有効な解決法といわているが、いまだワクチン開発はなされていない。一方、2006年頃から免疫を抑制するレセプター/リガンドのPD-1/PD-L1がマウスやヒト等で相次いで発見された。本研究は、このPD-1/PD-L1が牛白血病ウイルスに対する免疫を抑制し、ワクチン開発を妨げている1要因ではないかとの推論をもとに、牛におけるPD-1/PD-L1の免疫抑制機序を明らかにすると共に、これらの免疫抑制を解除する手法の開発を目的としている。
 牛PD-1などの免疫抑制関連遺伝子を同定し、これらの免疫抑制因子が牛の難治性疾病に おける病態発生に深く関与すること、ならびに同因子を標的として阻害することで病原体に対する免疫が回復することをin vitroおよびin vivo試験によって明らかにした。また、複数の免疫制御因子を同時に標的とすることで、より強い免疫賦活効果を示すことを確認した。免疫増強効果を保持する抗牛PD-1、抗牛PD-L1、抗牛LAG-3特異的モノクローナル抗体およびFc融合タンパク(牛PD-L2-Ig)を開発した。この内、抗牛PD-1抗体を牛白血病ウイルス感染牛へ投与した結果、免疫疲弊リンパ球からのIFN-γ産生量の上昇など、抗ウイルス免疫を回復させる効果を確認できた。さらに、抗ウイルス免疫を回復させた抗体について抗牛PD-1キメラ抗体へと改変し、牛への投与のための大量生成系の樹立を行った。
 これらの研究成果は、白血病など牛難治性疾病のワクチン開発に向けて1つの基盤を作ったものとして高く評価できる。また、特許出願はなかったものの、研究成果を計46編の論文として公表し、また学会発表、招待講演などの情報発信を積極的に行ったことも大いに評価できる。