生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2010年度 中間評価結果

D-アミノ酸に着目した新規機能性食品の開発

研究代表者氏名及び所属

大島 敏久(国立大学法人九州大学大学院農学研究院)

評価結果概要

本研究の最終目的は、呈味性、保存性、香気性などの食品の二次機能を向上した新規食品の開発、実用化への展開を図ることである。
これまで3年間、食品中のD-アミノ酸の分析手法の開発や食品素材と発酵食品中の網羅的分析、発酵食品製造過程におけるD-アミノ酸生成に関与する微生物の同定、D-アミノ酸代謝関連酵素遺伝子群のクローニングと酵素科学的特性解明に関する課題を実施している。

全体としては、計画通り進捗しており、いずれの課題においても、科学的価値が高い知見が得られている。
しかし、重要な研究目標である"D−アミノ酸が食品機能にどのように寄与できるのか"については、中課題Bで日本酒のD−アミノ酸の呈味性について機能の積極的な検証を行ったことを除き、検討がほとんど進んでいない。

このままでは、「新規食品の開発・実用化への展開を図る」を達成することは不可能ではないかと危惧される。当初に掲げた最終到達目標を見直し、残り2年間で新規性のある成果を期待できない研究項目を終了するなど、全体研究計画を修正する必要がある。研究目標を絞り込み、最終目的を達成するために取り組みを集中すべきである。

中課題別評価

中課題A「発酵食品とその素材のD-アミノ酸に関する基礎研究」

(九州大学大学院農学研究院 大島 敏久)

酵素反応を用いたD−アミノ酸分析法は、独創的な研究であり、高感度化が達成されれば、より実用的になると考える。 また、発酵食品からその原料までD−アミノ酸含量の分析データを蓄積し、さらに、醸造酢中のD-アミノ酸生産に関与する微生物から鍵酵素であるラセマーゼを見出し、それらのクローニング、活性確認までを終えた。いずれも、計画に沿って進んでおり、良好な成果が得られている。進捗が遅れている結合態D-アミノ酸の分析手法の開発、及び食品の紫外線や加熱処理については、見直しを行い、新規性のある成果が見込めなければ、これら研究項目を終了すべきである。

また、発酵食品の原料の産地や収穫法、保存法などが、D-アミノ酸の含量に及ぼす影響を検討する意味がどの程度あるのか疑問である。網羅的な分析を止めて、D-アミノ酸の成分表の完成に向けて必要なデータ収集に絞り込んで進めるべきである。

残り2年間は、D-アミノ酸の代謝制御がどのように行なわれているのかの生成メカニズム解明に特化して、重要な目標である、"呈味性などの二次機能性の探索と証明"を重点に取り組むよう研究計画を変更すべきである。

 

中課題B「米などの穀類とその発酵産物のD-アミノ酸の機能に関する基礎研究」

(関西大学化学生命工学部 老川 典夫)

多数の日本酒および原料米中のD-アミノ酸含量、日本酒の醸造過程におけるD−アミノ酸含量の動態と生産菌の消長、およびD−アミノ酸生産酵素のクローニングと酵素の性格付けなど、かなり前倒しで進捗しており、日本酒中のD-アミノ酸が旨味を呈するなど食品機能性について検証を行い、十分な成果を収めており、高く評価できる。

今後は、官能評価での予備的知見をさらに活用し、旨味を増強した日本酒の生産のための基礎研究を研究課題に追加して、アウトプットを明確にしながら、さらに研究内容の充実を図るべきである。日本酒の醸造過程において、どのようにしてD−アミノ酸の生産を制御していくか、に関する研究成果も期待したい。

 

中課題C「D-アミノ酸の定量、生成機構と制御に関する基礎研究」

(名古屋大学大学院農学研究科 吉村 徹)

酵素反応を用いるD-アミノ酸定量法の開発は独創的な研究である。今後、高感度化と汎用性の向上を図るべきである。全体としては、計画に沿って進んでおり、良好な成果が得られている。D-アミノ酸定量法のキット化や酵素の商品化は着実に実現してほしい。

残り期間を考えると、まず、食品の三次機能とD−アミノ酸との関連で実用化に向けた取り組みを行ない、新規機能性を明確にすることが重要である。三次機能に関する取組みが困難である場合に、食品の二次機能の呈味性を優先して検証することで良いと考える。また、食品の劣化や品質・微生物管理へのD-アミノ酸の応用を検討することも進めて良いが、あくまでも新規機能性の探索と検証が本課題の主目的であることから、可能性がなさそうな場合には、適当な時期に諦めることが必要である。

さらに、今後2年間の研究課題に、どのようにD−アミノ酸の生産を制御していくか、を新たに追加して、他の中課題と連携しながら取り組むべきである。その成果に期待したい。