研究代表者氏名及び所属
藤井 義晴(独立行政法人農業環境技術研究所)
評価結果概要
本課題は、強いアレロパシーを示す植物からアレロケミカルを探索して、新たな除草剤を開発することを主要目標にあげている。研究は計画に沿って順調に進捗している。特に合成・構造活性相関研究については、論文発表などの情報発信を含め多くの実績がある。しかし、新規の植物由来植物生長阻害成分の探索ならびに農薬代替植物の選抜に関しては、未だ研究の進行状況は思わしくない。
その中で植物生長阻害活性をもつモデル天然物として、ナギナタガヤからヨノン類縁体を単離・同定したことは、研究のひとつの成果ではあるが、これらの物質は多様な植物種から同定される可能性のある化合物である。植物界でのそれら化合物の分布状況や抑草作用スペクトルなどの検討が必要である。また、企業の参画によって、シス桂皮酸類を用いた植物生長阻害活性に関する構造活性相関研究が著しく進展した。
ここでピックアップされた化合物が、植物由来の植物生長阻害物質に留まらず、新規国産除草剤を開発するための基礎化合物となる可能性を示したことは評価される。以上のように、本課題は、中間時の到達目標をほぼクリアしており、その成果は日本の生物系特定産業へ寄与する可能性が高いと考えられる。ただし、従来の除草剤に代わりうる新規除草剤の開発の可能性についてはなお不透明な点があり、今後2年間でこの点を払拭してほしい。
なお、特許件数あるいは論文数はいずれの課題においても当初の計画を上回っており、インパクトファクター5以上(研究水準が極めて高い)の学術誌に複数の論文が公表されている。このことは、研究が順調に進捗し、しかも水準の高い成果が得られていることを示している。
今後は、新規除草剤のリード化合物の選抜に向けて中課題間の連携をより一層強め、アレロケミカルの実用化に向けた成果を期待する。
中課題別評価
中課題A「新規生理活性物質の分離同定と作用機構の検証」
(独立行政法人農業環境技術研究所 藤井 義晴)
本課題は、強いアレロパシーを示す植物からアレロケミカルを探索するとともにアレロパシーの強い被覆植物を見出そうとするものであり、全活性法により180種の植物から有力なアレロケミカルを21種見出したことは評価に値する。しかし、これら化合物の構造的新規性が低いのが残念である。一方、被覆植物としての圃場での評価に関する項目に関しては具体的な成果が挙がっていない。
今後の取り組みに期待したい。なお、次年度から開始予定であったアレロケミカルの作用機構の解明のためのDNAマイクロアレイ解析を前倒しで行ったことは高く評価される。公表論文の数は多いが、インパクトファクターの高い学術誌に公表していないのが気になる。なお、当初の目標よりも特許件数が多かったことは大いに評価できる。
今後は、有望なアレロケミカルに焦点を絞って、作用機構の解明に重点をおいて研究を実施していただきたい。
中課題B「セスキテルペン類およびハイブリッド天然物の有機合成」
(徳島大学 宍戸 宏造)
本課題は、セスキテルペン類およびハイブリッド天然物の有機合成を進めて、新たな化学合成法を開発するとともに中間体を含めた多様な天然物をモデルとした化合物群によるライブラリーを構築し、その中から有望リード化合物を探索することを目標とした。現在、新たな天然物のモデルとしてマトリカリアエステル類やヨノン類の類縁体合成に取り組んでおり、これらの合成技術は、新たな農薬の開発に有用な技術になると考えられる。ヘリアナン類の最終合成化合物についての生物活性試験は未達成であるが、これらの中から高い植物生長阻害活性を持つ化合物が選択され、その構造の最適化が図られることを期待する。また、それら誘導体における活性評価が当初目標よりも早く実施できたこと、さらに、除草効果のみならず殺菌・殺虫効果のある化合物が発見できたことは大いに評価してよい。
また、担当者はアレロケミカルの化学合成に関する世界のトップリーダーであり、論文はインパクトファクター5を超す学術誌にも複数掲載された。
以上のように、本中課題では、実用性のみならず学術的にも価値の高い研究が行われたと考える。今後は、除草活性の見られる化合物に焦点を絞りながら研究を実施していただきたい。
中課題C「アレロケミカルの構造活性相関とプローブ分子の合成」
(九州大学 新藤 充)
本課題は、シス桂皮酸の誘導体を50種類以上合成することを目標としていたが、目標を大幅に上回る180種の誘導体の化学合成に成功した。このシス桂皮酸ライブラリーの中から選んだ75種について生長阻害試験、細胞毒性試験、水田・畑作用除草剤スクリーニング、殺菌剤・殺虫剤スクリーニングを行い、シス桂皮酸の芳香環上の置換基変化を中心とした構造活性相関を明らかにした。また、シス桂皮酸よりやや強い阻害活性を示す誘導体、および光安定性に優れた類縁体、さらに、パラアルキル置換シス桂皮酸で強い伸長促進作用をもつ化合物を見出している。化合物ライブラリーを用いた構造活性相関ならびに定量的構造活性相関研究によって、天然物をリードとする新規除草剤候補物質の選定に結びつけた研究の一貫性は大きく評価できる。また、検定した75種の誘導体のなかで、強い生物効果を示すもの2種について特許出願したほか、学術誌にも論文を掲載した。植物生長阻害活性発現機構についての生化学的アプローチもプロジェクト研究の流れに乗っており、今後のユニークなプローブの獲得によってさらなるデータの集積が見込まれそうである。