生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2010年度 中間評価結果

オルガネラゲノム工学による細胞質雄性不稔の開発

研究代表者氏名及び所属

山岸 博(京都産業大学総合生命科学部)

評価結果概要

本研究では、アブラナ科とナス科の細胞質雄性不稔性について、雄性不稔系統のオルガネラゲノムを詳細に解析することにより、雄性不稔の原因遺伝子を同定する。その一方で、これらの植物の細胞遺伝学的解析とDNAマーカーの利用によって、稔性回復遺伝子を同定する。 これらによって、我が国独自の新規の細胞質雄性不稔系が多種類実用化され、F1育種の効率化と安定化に寄与することを目指す。

全体として、概ね当初の計画通りに研究が進み,アブラナ科作物およびナスについて,さまざまな雄性不稔細胞質が導入され,これらは近い将来のF1品種育成に大きく寄与することが期待される。実用性を念頭に研究が進められているからか,発表論文が少ない。今後は,得られた新規素材を利用して科学的インパクトの高い論文を公表していく努力が必要である。

中課題別評価

中課題A「モデル植物を用いた細胞質雄性不稔性の誘起と機構の解明」

(京都産業大学総合生命科学部 山岸 博)

他の中課題と比較した際、最も科学的価値、チャレンジ性が高い研究成果を出すことを期待されており、その方向で研究を進められていることは評価する。

体細胞雑種を利用して安定した雄性不稔性を示す細胞質を獲得することができ、戻し交雑により種子稔性も回復している。雄性不稔の原因が,シロイヌナズナ由来のミトコンドリアゲノム配列にあるのか,細胞融合時のミトコンドリアゲノムの組換えによって生じた配列にあるのかを明らかにする必要がある。

葉緑体ゲノムの形質転換によって細胞質雄性不稔性が獲得されるメカニズムは,非常に興味深い。また,形質転換葉緑体をタバコから他の植物種に安定して移行させる技術は,葉緑体の形質転換がタバコだけで可能である現状では,非常に有用な技術となりうる。

 

中課題B「属間交雑に基づくアブラナ科雄性不稔植物の作出と細胞遺伝学的機構の解明」

(宇都宮大学農学部 房 相佑)

精力的に胚救済技術を応用した交配実験が進められ,ダイコン,ハクサイ,キャベツにおいて新たな細胞質雄性不稔系が作出された。 これらは,農業生産への直接の寄与が期待できるものも含まれる。雄性不稔とその回復のメカニズムについて,原因遺伝子の同定と花粉形成過程における表現型の記述だけでは,科学的インパクトを高めるには不十分であると思われる。

単に系統が作出できればよいというだけではなく、作出した系統の解析(不稔性の機構解明)への取り組みについて一層の努力を望む。

 

中課題C「ナス属の細胞質置換による雄性不稔機構の分子遺伝学的解明」

(佐賀大学農学部 一色 司郎)

野生種との細胞質置換により,有用な細胞質雄性不稔系統が複数系統育成されている。Rf遺伝子については,それぞれ2遺伝子が関与していることを突き止めた。これらの成果は高く評価できる。戻し交雑後代の低い花粉稔性については,さらなる科学的考証が必要である。系統作成とそれに基づいた機構解明への取り組みが最もバランスよく進められている。

 

中課題D「新規細胞質雄性不稔性の創出と遺伝様式の解明」

(独立行政法人農研機構・野菜茶業研究所 松元 哲)

ナスの細胞質雄性不稔を利用したF1品種の採種システムが実用レベルまで達していることは評価に値する。アブラナ科野菜関連は、興味深い系統が得られているが、その機構解明への取り組みは不十分である。また、作出に関しても計画より遅れ気味で、アプローチの修正を考えてはどうか。