研究代表者氏名及び所属
寺尾 純二(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
評価結果概要
本研究は極めてチャレンジングな課題である。総じて科学的、学問的にはすばらしい個別の成果が挙げられているが、研究課題のヒトへの応用に向けて着実に進めていく研究全体の戦略が乏しいようにみえる。特に中課題Cの進捗が著しく遅れており、中課題A、Bの成果を帳消しにしている感を受ける。残りの研究期間に寝たきり高齢者の筋肉老化を防ぐ食品開発に向けた目標を達成するには、医との連携や研究資源の確保など課題は多い。
これまでの成果を元にヒトでの成果を得るためには、対象とするヒトを慎重に選択して詳細な解析が必要となる。そのためにはアドバイザー等に臨床医(整形外科医、老年病内科医など)及び薬学(合成化学)の専門家を配置する必要がある。
達成目標とする高齢者での筋萎縮の防止につながる成果を挙げるためには最大限の努力をすべきであり、当初の計画を大幅に変更することがあって良い。研究体制の変更に伴って、中課題間の分担・連携のあり方について見直しを行い、今後2年間に実施すべき研究内容を絞り込み、集中して研究を進めることを望む。
中課題別評価
中課題A「フラボノイドの探索と作用解析」
(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 寺尾 純二)
これまでに得られた研究成果の科学的価値は高く、独創性がある。特に、抗Q3GAモノクローナル抗体を用いたヒト粥状動脈硬化巣におけるケルセチン代謝物の検出の結果は興味深く、動脈硬化による筋萎縮も検討課題とすべきと考える。また、動物実験における検討物質の投与方法は、老人を対象とするのであれば、一考を要する。さらには、動物モデルの選択はマウス尾懸垂モデル、坐骨神経切除モデルが特殊なモデルであるため検討を要する。候補物質の経口投与による骨格筋あるいは血管への分布状況や候補物質の選択、順位付け、大量生産など課題はまだ残っている。食経験のある食材を用いるのか、それとも高機能性をもたせた化合物を用いるのか、あるいは最終結果が出るまで並行して続けるのか、期間や経費も考慮し総合的に判断する必要がある。さらには、単独化合物か抽出物を利用するのかの点も考慮されたい。加えて、メカニズム解析については、中課題Bとの連携が必要である。
中課題B「ペプチドの探索と作用解析」
(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 二川 健)
抗ユビキチン化ペプチドを利用した筋萎縮阻止は極めてユニークで、総じて、これまでに得られた研究成果の科学的価値は高く、独創性がある。分子レベルでの成果が中心であることが気になるが、研究課題と一致した研究成果ではある。特に、ユビキチンリガーゼ阻害や骨格筋に特異的なペプチドトランスポーターの同定は評価できる。ペプチドに加えて、中課題Aとの連携でプレニル化およびメチル化フラボノイド誘導体、マメ科甘草、クワ科クワ、アサ科ホップ、トウダイグサ科オオバギからの候補物質を投与した動物実験での筋委縮阻害のメカニズム解析も実施されたい。分子レベルでの解析は十分なされており、これに組織化学的、電顕的解析や筋力機能評価が加われば成果の評価は高くなる。
中課題C「発酵法による高度機能化技術」
(鹿児島大学大学院医歯学研究科 馬嶋 秀行)
酵母に高発現させる手法では進展が見られなかった。 新たに、43種のイネ種子を網的に探索した結果、ミリストイル化・プレニル化酵素を大量発現する種子を発見した。しかし、評価できる具体的な成果に乏しく、当初計画した候補物質の大量産生に直結する発酵法による高度機能化技術の確立には至っていない。評価報告書に記載された今後の計画および中間評価ヒアリングで説明された今後の計画の提案内容から判断すると、今後2年間での研究の進展は期待薄と言わざるを得ない。最終目標として掲げた「大量生産技術の開発」の成果が出るまでには、まだまだ多くの試行錯誤と時間を要するとみられる。残り2年余の期間で目標が達成されるとは考えられない。そこで、本課題は、平成22年度をもって研究を終了すべきものと判断する。