研究代表者氏名及び所属
岩倉 洋一郎(東京大学医科学研究所)
評価結果概要
本研究では、βグルカンなどの多糖成分について分子生物学的、免疫学的な機能性評価を体系的に行い、機能性食品の科学的基盤の確立に向けて、ツールや評価系作成のための素材を提供するとともに、高機能性食品を開発して、予防医学的な科学的根拠に基づいた機能性食品市場の開拓を目指している。
全体として、中間時までにそれぞれの役割分担の中で多くの科学的価値の高い知見を創出しており、一部で目標達成の多少の遅れが見られるものの、前倒しで取組みが行われている課題もあり、また、効率的な進捗を考慮してプロジェクト期間中の前半と後半の取組みを入れ替えて実行するなどの工夫をしている課題も見られる。総じて非常に精力的に研究が進められており、年度末までの残りの期間における進捗も期待されることから、当初の計画を上回って達成し、順調に進捗していると評価できる。今後においても、研究計画に沿ってさらに研究を深めるとともに中課題間の連携を密にし、最終的なアウトプットをしっかりイメージして重点的かつ効率的に取り組み、多くの成果を挙げることを期待したい。
また、情報発信については、発表論文数、学会発表数からみて十分に行われており、高く評価できるが、一方で商品化の際に非常に重要となる特許出願については物足りないので、今後の一層の努力が必要である。
中課題別評価
中課題A「糖鎖認識受容体シグナルによる自然免疫賦活機構の解析」
(東京大学医科学研究所 岩倉 洋一郎)
βグルカン受容体のDectin-1およびαマンナン受容体のDectin-2のKOマウス、IL-17関連のKOマウスを用いることで、自然免疫系の活性化機構において多くの新たな知見を見い出しており、当初の計画を大幅に上回って進捗していると評価できる。
今後においても、Dectin-1/2シグナルによる細菌感染防御、Dectin-1シグナルによる炎症制御および抗腫瘍作用の検討、Dcirリガンドを含有する食品素材の探索とその成分の高機能性食品への応用に関して精力的に取り組み、免疫修飾作用の理論的根拠を確立することを期待する。
中課題B「微生物由来の高機能性分子物性評価法の開発と構造活性相関の検討」
(東京薬科大学薬学部 大野 尚仁)
分離・精製が難しいとされている多糖類の製造方法の確立や、得られた多糖についての構造決定も行っている。
ポリフェノールについては、酸化酵素のリコンビナントを発現させ、機能の評価系確立のため高分子ポリフェノールの免疫調節機能に関してマウスを用いた解析結果を出している。小項目によって進んでいる部分とやや遅れ気味の部分があるが、概ね目標は達成されていると判断する。今後2年間で、さらに多くの食品素材について構造活性相関に関するデータ収集を行い、グルカン、マンナンの機能評価の方法論を確立するとともに、活性型多糖の構造解析技術を完成させ、受容体解析までをしっかりやりきってほしい。
中課題C「消化管免疫細胞の活性化と機能成熟機構の解明」
(独立行政法人産業技術総合研究所 辻 典子)
βグルカンの消化管免疫機能を解析し、抗炎症作用を有すること、および消化管のIL-10産生型T細胞の機能成熟に関与することを明らかにした。これらの成果のうち、βグルカンのDSS誘導型大腸炎における抗炎症作用については、特許を出願している。また、βグルカン含有食品素材のスクリーニングにより、ガゴメ昆布抽出物が感染防御能および抗炎症作用を有することを明らかにした。 有用物質をスクリーニングするためのinvitro系については不十分であり、この点への取組みが必要であるが、全体として概ね目標は達成されている。 今後、メカニズム解明を進める中で、論文発表を通じて成果をしっかりアピールしていってほしい。
中課題D「自然免疫賦活能を持つ高機能性食品の評価法の確立と商品開発」
(日生バイオ株式会社 杉 正人)
メシマコブ等の菌糸体の培養条件を検討し、低コストでありながら免疫活性が高く、高収量が得られる方法を確立している。 また、その成分がβグルカンであることも、中課題Bで作成された抗体を用いて確認を行っている。さらに、その安全性も検証している。 一方で、商品開発のために他の食品素材との組み合わせについても検討を加えるなど、概ね計画通り進捗している。特許出願に至るよう、今後の努力を期待する。