(東京大学大学院農学生命科学研究科 塩田 邦郎)
評価結果概要
研究目標の達成状況については、哺乳類ゲノムDNAにおけるエピジェネティック変化の研究モデルとして、マウスゲノムDNAのメチル化について精力的な研究を展開し、大きな成果をあげた。中間評価において散漫な傾向が指摘されたが、その点も克服され、マウスゲノムDNAのメチル化データベースの作成、DNAメチル化制御と維持の分子機構についての新たな概念の提唱等国際的に評価できるものとなった。生物学における重要な問題である雑種強勢やクローンマウスにみられる胎盤異常とDNAメチル化の関連については現象論にとどまったが、これらの問題に取り組む基礎的情報の蓄積が得られた。
主な研究成果を見ると、各種の幹細胞株の樹立とRLGS法によるゲノムDNAメチル化解析の手法の応用により、DNAメチル化パターン解析の実験系が確立された。次いでそれらを利用して、幹細胞から分化した各種細胞にわたる種々の細胞におけるDNAメチル化パターンの解析が行われ、細胞・組織特異的メチル化パターンが総合的に整理された。生殖細胞と体細胞の間でのDNAメチル化パターンの相違を示したユニークな成績のような副産物も得られた。これらの実験系及びそれらを利用して得られた実験成績は、新しい研究領域の確立に役立つことが期待される。
以上を含め総合的に評価すれば、DNAメチル化を中心としたエピジェネティック研究領域の基盤は本研究班が世界に先駆けて行った大きな成果であり高く評価できる。これまでの成果は基礎的な面にとどまっているが、その応用領域はきわめて大きい。