(筑波大学大学院生命環境科学研究科 高谷 直樹)
総合評価結果
優れている
評価結果概要
本課題は、カビの多様な嫌気代謝系の基礎研究から得られる成果に基づきカビの高機能化を試み、醸造・発酵産業などへ寄与することを目標とした。
その結果、嫌気的エネルギー獲得機構および代謝系については、1)硝酸還元酵素および亜硝酸還元酵素の脱窒への関与とそれら遺伝子の発現制御機構の解明、2)硫黄還元反応におけるグルタチオン還元酵素の関与とチオレドキシンスーパーファミリーに属する新規酵素の発見、3)活性窒素ラジカル耐性機構や低酸素によるオートファジー誘導、4)低酸素条件下でのグルタミン酸生成とγ-アミノ酪酸(GABA)シャントの発見、5)低酸素条件下でのエネルギー代謝系におけるペントースリン酸経路の重要性を示唆するなど多くの重要な成果を得ることができた。ただ、実用化に向けた基盤技術開発では、A.oryzaeを使用してグルタミン酸デカルボキシラーゼを高発現させ、GABA生産を試み、野生株の2-4倍量のGABA生産に成功したが、実用レベルには至らなかった。このように一部目標を達成できなかった部分もあるものの、課題全体としては、優れた研究成果を上げた。カビについては好気的条件下での研究が多い中、嫌気条件下でのエネルギー獲得機構というユニークな研究課題で多数の基礎的研究成果を上げたことを高く評価する。
今後、これまでに得られた研究成果を深化させ、データの統合化を図れば、カビの低酸素環境への応答に関する新たな分子機構の解明に大きく寄与することは確かであろう。