生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2010年度 事後評価結果

耐熱性発酵微生物の「耐熱性」分子機構の解明と発酵産業への利用

(山口大学農学部 松下 一信)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

微生物や微生物の生産する酵素の耐熱性分子機構の解明に関する研究は多いが、本研究では、発酵生産に使用あるいは使用可能な、各種微生物について、耐熱性のメカニズムと実生産への利用を意識し、研究を展開した。
耐熱性機構と酸化ストレスの関係を見いだし、酸化ストレス抑制因子の増強が高温生育に有効であること、高温で増殖するために必要な「耐熱性」遺伝子には、「膜構造」「DNA修復」「染色体維持・細胞分裂」「酸化ストレス応答」「変性タンパク質処理」などに分類される多くのタンパク質群が含まれていること、「耐熱性」遺伝子と短時間の急激な高温に適応するための「熱ショック応答」遺伝子とは、大きな相関がないことを明らかにするなど重要な成果を得た。耐熱性微生物を利用して、高温発酵の実用化に向けた可能性についても検証し、実用化に当たって検討すべき点も残っているが、道筋は示された。
以上のように、従来の発酵生産に好適な温度域を超えた温度領域でも生育や生産が可能となるための分子機構の一端が示されたことは基礎的観点からも、応用的観点からも重要な成果といえる。また、高温条件下における各種有用物質の高速発酵生産の可能性、比較的気温の高い地域における各種発酵生産の実用レベルで展開の可能性などが呈示され、食品産業などに対して、大きなインパクトを与えるものとなっている。