生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

高効率物質生産系宿主としてのカイコのポストゲノム育種

評価結果概要

本研究では、九州大学で保存されているカイコの系統の中から、バキュロウイルス発現系に適した系統を選抜し、また形質転換を行うことで、この発現系をより最適化することを目的としている。この研究によって、現在タンパク質発現に関して発生している多くの問題を解決し、目的とする活性のあるタンパク質を高効率・低コストで生産することを可能にすることから、応用的には非常に有用な研究である。
カイコの系統の選抜は計画通り遂行され、成果を挙げた。しかし、この選抜では、他の昆虫のバキュロウイルスAcNPVを用いており、一方で、後半の形質転換に関する研究においてはカイコバキュロウイルスBmNPVを用いている。今後、この点について論理的な説明ができる研究、すなわちAcNPVで選抜した高効率の系統を用いて形質転換を行い、カイコBmNPVをベクターとして発現させることで所期の目的が叶うことを示す必要がある。バキュロウイルス発現系に適したカイコ系統の選抜は、多くの労力を有するが、我が国で保存されている遺伝資源の有効活用という点から言えば、非常に重要な課題である。
研究の進め方では、シャペロンの強制発現、糖鎖構造の改変、内在性プロテアーゼの欠失を形質転換ですべて解決しようという試みは、多くを目指しすぎてその目的を達成するのに残り2年の期間で可能かという点で問題がある。現時点で成果が期待できるシャペロンの強制発現に絞るなど、今後の進め方について十分な検討が必要である。この研究で選抜し形質転換したカイコを用いて、有用なタンパク質発現の成功例を実績として出してほしい。
成果の公表については、レベルの高い雑誌への論文発表や特許出願のために、より一層の努力を期待する。