生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 研究成果

イネQTLに関する遺伝子ネットワークのゲノム生物学的解明

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

1実験系統群の作出および環境適応性形質の評価
(吉村淳/九州大学大学院農学研究院)
2環境適応性形質の遺伝解析
(◎佐々木卓治/独立行政法人農業生物資源研究所)
3環境適応性形質関連遺伝子の単離及びその発現機構の解析
(山内歌子/農林水産先端技術研究所)

研究の目的

植物の品種あるいは個体間には多様な表現形質の変異が認められる。これらの変異の多くは、複数の遺伝子の制御と環境の影響を受け複雑な遺伝をすることから、従来は分子レベルでの研究対象とされなかった。本研究では、イネゲノム解析研究において作出された様々な研究資源を活用し、イネの開花期(出穂期)を複雑形質のモデルとして、関与遺伝子座(QTL)の検出ならびに遺伝子の単離・同定ならびに出穂期の遺伝的調節機構の解明を目的とした。

研究の内容

近縁野生種を含めた多様な遺伝資源を利用して、遺伝解析に利用可能な実験系統群を作出する。DNAマーカーを用いて出穂期に関する遺伝解析を行い、それぞれの形質に関与するQTLの染色体上での位置を決定する。QTLの準同質遺伝子系統(NIL)を作出し、遺伝子作用ならびに遺伝子間相互作用の解析を行う。出穂期関連QTLについて、マップベースクローニング法により遺伝子を単離・同定する。単離した遺伝子の発現解析ならびに遺伝学的相互作用の解析結果に基づき出穂期の遺伝的調節機構のモデルを構築する。

主要な成果

  • 作出した実験系統群を活用して、イネの出穂期に少なくとも15種類のQTLが関与していることを明らかにした(図2)。
  • 7種類のQTLが感光性(日長に依存する開花)に関与することを明らかにした(図2)。感光性遺伝子座間には遺伝子間相互作用が見出され、Hd1は感光性の発現において極めて重要な役割を果たしていることが示唆された(図3)。
  • マップベースクローニング法により感光性関連QTL(Hd1,Hd3,Hd6)を単離・同定した。シロイヌナズナとの比較において、Hd1,Hd3aは開花関連遺伝子COおよびFTと類似する構造をもっており、HD6は生物時計に関連するプロテインカイネースCK2α遺伝子に類似する構造を有していた(図3)。さらに、Hd5,Hd9およびHd14(Ehd)の候補遺伝子を特定した。
  • イネの出穂(開花)に関する遺伝的制御機構のモデルを構築した(図3)。短日条件ではHd1遺伝子がHd3a遺伝子の転写レベルを上げることで出穂が促進されており、シロイヌナズナの長日条件におけるCOおよびFT遺伝子との機能の類似性が明らかとなった。一方、長日条件では、Hd1遺伝子が他の感光性遺伝子(Hd2,Hd3a,Hd5およびHd6)と協調して出穂の抑制因子として働いていることが推定された。
  • イネ開花調節の遺伝的制御機構解明は、短日植物における初めての例であり、シロイヌナズナ(長日植物)との比較生物学において重要な知見となった。自然変異を利用した遺伝子機能解析の本研究手法は、他の形質への応用が期待される。

主な発表論文

  • Yamamoto T., et al :Identification of heading date quantitative trait locus Hd6 and characterization of its epistatic interactions with Hd2 in rice using advanced backcross progeny Genetics 154: 885-891(2000)
  • Yano M., et al : Hd1 a major photoperiod sensitivity quantitative trait locus in rice, is closely related to the Arabidopsis flowering time gene CONSTANS : Plant Cell 12: 2473-2483(2000)
  • Yano M. Genetic and molecular dissection of naturally occurring variations: Curr.Opin.Plant Biol.,4:130-135(2001)
  • Takahashi Y., et al : Hd6 a rice quantitative trait locus involved in photoperiod sensitivity, encodes the alpha subunit of protein kinase CK2: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98: 7922-7927(2001)
  • Yano M.,et al : Genetic control of flowering time in rice, a short-day plant : Plant Physiol.,127:1425-1429 (2001)

研究のイメージ

イネQTLに関する遺伝子ネットワークのゲノム生物学的解明