生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 研究成果

環境微生物の難分解性芳香族化合物分解能の多様性に関する分子生物学・分子生態単的研究

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • 多環芳香族化合物分解系酵素の構造と多様性の解明と機能解析
    (◎福田雅夫/長岡技術科学大学工学部)
  • 単環芳香族化合物分解系の多様性と分解機構に関する研究
    (宮下清貴・小川直人/独立行政法人農業環境技術研究所)
  • 土壌生態系における農薬分解エステラーゼ生産菌およびエステラーゼ遺伝子の多様性と農薬分解機構に関する分子生態学的研究
    (早津雅仁/静岡大学農学部)

研究の目的

環境汚染のバイオ修復への活用をめざし、ポリ塩化ビフェニルや農薬など環境汚染をひきおこす芳香族化合物の分解微生物ならびに分解酵素とその遺伝子の構造、機能、発現を解析する。得られる知見を総合して分解機構や多様性を明らかにし、効率的な完全分解を実現できる最適な分解酵素系を備えた分解菌を構築することを目的とする。

研究の内容

ポリ塩化ビフェニル(PCB)や農薬を含むの芳香族化合物は、水酸基の付いたカテコール型の中間体を生じ、芳香環開裂を受けて代謝される。難分解性芳香族化合物の分解は安息香酸型やカテコール型の中間体への変換を触媒する初発(上流)分解酵素系と、これらの中間体の分解を触媒する下流分解酵素系で構成されている。
本研究は上流分解酵素系と下流分解酵素系のそれぞれの鍵酵素に関する解析を進め、得られた成果を総合して効率的な完全分解酵素システム構築をめざすものである。上流分解酵素系では環境汚染物質として知られるPCB、内分泌撹乱作用が問題となっているカーバメイト系農薬のカルバリル、有機リン系農薬のフェニトロチオンを、下流分解酵素系ではクロロ安息香酸とクロロカテコールを対象として研究をおこなった。

主要な成果

  • PCB分解菌Rhodococcus sp. RHA1が2つの発現制御系のもとで多様なPCB分解酵素系を同時に発現することを明らかにした。また分解酵素遺伝子をコードする巨大線状プラスミドの分子構造を明らかにした。
  • PCB分解系の鍵をにぎる芳香環開裂酵素2,3-dihydroxybipheny1 dioxygenaseの三次元立体構造解析から活性中心におけるリグニン分解系酵素との収斂進化を明らかにし、三次元立体構造にもとづく酵素の改良に成功した。
  • 土壌からカーバメイト系殺虫剤分解菌を分離し、力一バメイトエステラーゼの起源の多様性を明らかにした。また有機リン系殺虫剤分解に関わる上流分解酵素系の遺伝子構造を明らかにした。
  • Burkholderia sp. NK8のクロロ安息香酸(CBA)分解能がCBAジオキシゲナーゼの基質特異性に支配されること、CBAから生じるクロロカテコールのオルソ開裂酵素の多様性と基質特異性の由来を明らかにした。
  • RHA1のPCB分解遺伝子をNK8株に導入して発現させることに成功し、組換え分解菌を構築した。カルバリルの分解でも分解菌の組み合わせをおこなった。また分解菌の土壊中での挙動の把握にも成功した。

主な発表論文

  • Yamada A., et al. : Two nearly identical aromatic compound hydrolase genes in a strong polychlorinated biphenyl degrader, Rhodococcus sp. strain RHA1 : Appl. Environ. Microbiol., 64: 2006-2012 (1998)
  • Shimizu S., et al. : Characterization of the 450-kb linear plasmid in a polychlorinated biphenyl degrader,Rhodococcus sp. strain RHA1 : Appl. Environ. Microbiol., 67: 2021 -2028 (2001)
  • Uragami Y., et al. : Crystal structures of substrate free and complex forms of reactivated BphC, an extradiol type ring-cleavage dioxygenase : J. Inorg. Biochem., 83: 269-279 (2001 )
  • Hayatsu M., et al. : Involvement of two plasmids in fenitrothion degradation by Burkholderia sp. strain NF100 :Appl. Environ. Microbiol., 66: 1737-1740 (2000)
  • Francisco P. Jr., et al. : The chlorobenzoate dioxygenase genes of Burkholderia sp. strain NK8 involved in the catabolism of chlorobenzoates : Microbiology, 147: 121 - 133 (2001)

研究のイメージ

環境微生物の難分解性芳香族化合物分解能の多様性に関する分子生物学・分子生態単的研究