研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)
- 環境保全型害虫防除剤の殺虫メカニズムに関する研究
(姫野道夫・杉本憲治/大阪府立大学大学院農学生命科学研究科) - 環境インパクトの小さい殺虫蛋白質の動態の解析と害虫防除システムの構築
(◎酒井 裕/岡山大学工学部) - 微生物由来害虫防除蛋白質の高生産技術の開発
(千 菊夫/信州大学農学部) - 新規な有害双翅目昆虫特異的殺虫蛋白質を産生するBT菌のスクリーニングと遺伝子解析
(武部 聡/近畿大学生物理工学部)
研究の目的
グラム陽性菌Bacillus thuringiensis(BT菌)が産生する特異的殺虫蛋白質(BTトキシン)は、環境にやさしい殺虫剤として利用されてきたが(図1)、その幅広い利用を阻む問題点が指摘されている。本研究ではBTトキシンの活性化、受容体、安定化、および遺伝的構成を解明し、また新規殺虫蛋白質の探索・創製により、BTトキシンの問題点の克服といっそうの有効利用を図るために必要な知的基盤を構築する。
研究の内容
鱗翅目昆虫特異的BTトキシンであるCry1Aaおよび双翅目昆虫特異的Cry4Aの受容体の性状と機能を解明する。Cry4Aなどの活性化過程の解明と活性型分子の同定、及び標的細胞膜との結合過程を解明する。またBT菌における殺虫蛋白質遺伝子構成、新規な殺虫蛋白質の選抜、及び人為的構築のための適切な手法を確立する。
主要な成果
- Cry4Aは活性化の過程で130KDaプロトキシンがプロセシングを受け、20KDa及び45KDa断片が生成すること、さらにこれら2つのポリペプチドの会合体がCry4A活性型分子の実体であることを明らかにした(図2)。
- Cry1Aaに特異的に結合するカイコ中腸上皮細胞膜蛋白質BtR175のバリアントcDNAを哺乳類培養細胞に導入し、安定発現株を作成した。この細胞株はCry1Aa感受性を獲得しており、Cry1Aa投与によって細胞死に至ることが示された。従って、Cry1Aa感受性はその受容体BtR175の存在のみによって発現し得ることが明らかとなった(図3)。
- 数種類のBTトキシンの標的細胞への結合を詳細に解析し、それらの結合特性のBTトキシンの種類による相違点を明らかにした。
- Bacillus thuringiensis subsp. israelensisの70MDaプラスミドの塩基配列を決定し、殺虫蛋白質遺伝子及び関連遺伝子の構成を明らかにした。
- BT菌及び関連菌株の殺虫蛋白質遺伝子を検出、クローニングする手法を確立し、新規な遺伝子の検出・クローニング・構造解析を行った。
主な発表論文
- Yoshisue H., et al. : Identification of a second transcriptional start site for the insecticidal protein gene cryIVAof Bacillusthuringiensis subsp. israelensis: Gene, 185: 251-255 ( 1997)
- lhara H., et al. : Purification and partial amino acid sequences of the binding protein from Bombyx mori for Cry1Aa δ-endotoxin of Bacillus thuringiensis : Comp. Biochem. Physiol., 120: 197-204 (1998)
- Yamagiwa M.,et al. : Activation process of dipteran-specific insecticidal protein produced by Bacillus thuringiensis subsp. israelensis: Appl. Environ. Microbiol., 65: 3464-3469 ( 1999)
- lkawa S., et al. : cDNA cloning of the Cry1Aa receptor variants from Bombyx mori and their expression in mammalian cells : Biosci. Biotech. Biochem., 64: 2682-2685 (2000)
- Yamagiwa M., et al. : Binding properties of Bacillus thuringiensis Cry4A toxin to the apical microvilli of larval midgut of Culexpipiens : Biosci. Biotech. Biochem., 65: 2419-2427 (2001)
研究のイメージ
