研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)
- モノネガウイルス・レプリコン系の開発と応用
(◎甲斐知恵子/東京大学医科学研究所) - センダイウイルスベクターを用いた有用物質生産系の開発
(加藤篤/国立感染症研究所)
研究の目的
モノネガウイルス(マイナス1本鎖RNAウイルス)群のウイルスは、伝播力と致死率の高い感染症を引き起こすものが多く、ヒトにも動物にも大きな被害を及ぼしている。本ウイルス群では、cDNAクローンからウイルスを作出するリバースジェネティックス法の開発が困難であったため、本ウイルス群の病原性発現の分子機構の研究が遅れており、基礎的特性解明と効果的防御法開発が待望されていた。本研究では、このウイルス群のうちモービリウイルス属を中心として、新リバースジェネティックス法を開発し、新手法を用いたウイルス学的基礎研究を行ない、その成果を基に新しい防御法を開発するための基盤創出を目的とした。また、本ウイルスの特性を生かし、有用蛋白発現系としての開発と改良のための基礎的研究も目的とした。
研究の内容
(1)イヌジステンパーウイルス(CDV)を中心としたモノネガウイルス・レプリコン系の開発に成功し、(2)ウイルスの増殖機構、病原性、免疫原性の基礎研究を行なった。(3)また、新技術を用いた新型ワクチン開発のための基礎研究も行なった。(4)さらに、センダイウイルスの特性を生かし有用蛋白大量発現系の開発と改良を行い、(5)サイトカインを発現させて有用性を検証した。以上の成果をもとに、モノネガウイルスの基礎的知見を得、新型ワクチンやベクター開発への戦略的基盤を構築した。
主要な成果
独自に分離したCDV野外株からフルゲノムプラスミドを作製し、リバースジェネティックス系の樹立に成功した。CDVゲノム上にリポーター遺伝子を導入してウイルスゲノム上の転写制御配列の機能解析等を行い、ウイルスベクターとして有効利用するための基礎的知見を得た。また、本系によって作製したGFP発現CDVを用いて新たな細胞侵入因子を見出した。同時に、牛疫ウイルス(RPV)でも独自の株においてリバースジェネティクス系の確立に成功した。特にRPVでは我々の開発した自然病態を再現する優秀なウサギ感染モデル系に、この新たな組換えウイルス作出技術を導入することにより、種特異性決定機構に関与するウイルス蛋白の解明研究に着手できた。また病原性の異なるウイルスクローンの作出にも成功していることから、病原性発現機構解明の突破口を開いたと期待される。さらに応用研究として、CDVの新リバースジェネティックス系を用いて、ヒトとイヌの人獣共通感染症であるリーシュマニアの抗原遺伝子を発現する2価ワクチンの開発を行い、防御効果の基礎的な検証を行なった。
また、センダイウイルスのリバースジェネティックス系を用いて、これまで未解明であったV,C蛋白の役割について、病原性への関与やIFN抵抗性への役割を明らかにし、ウイルスベクターの安全性を上げる改変を可能にした。さらに有用蛋白大量発現系として、サイトカインを発現させ、精製発現蛋白の生物活性および動物実験での有用性を実証した。
これら得られた成果は、モノネガウイルスのウイルス学的基礎研究に多くの新たな知見を与え、有効な新型組換えワクチンや新たなウイルスベクター開発の戦略的基盤を構築したと考えられる。
■主な発表論文
- Kobune F., et al. : Nonhuman Primate Models of Measles : Lab. Anim. Sci., 46 (3) : 315-320 (1996)
- lwatsuki K., et al. : Molecular and phylogenetic analyses of the haemagglutinin proteins of field isolates from dogs naturally infected with canine distempre virus : J. Gen. Virol., 78: 373-380 (1997)
- lwatsuki K., et al. : Establishment of a persistent mutant of canine distemper virus: Microbe. Infect., I (12) : 987-991 (1999)
- Kato A., et al. : Sendai virus gene start signals are not equivalent in reinitiation capacity: Moderation at the fusion protein gene : J. Virol 73: 9237-9246 (1999)
- Yoneda M., et al. : Rinderpest virus H protein: role in determining host range in rabbits: J. Gen. Virol. In press (2001)
研究のイメージ
