研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)
- 作物の生殖成長期における耐暑性の生理学的および遺伝学的解明
(◎江川宜伸/独立行政法人国際農林水産業研究センター沖縄支所) - 耐暑性に関与する遺伝子の夏作物への導入とその組換え体の解析
(高倍鉄子/名古屋大学大学院生命農学研究科) - アセチルコリンエステラーゼの機能解析とその遺伝子導入による作物耐暑性の向上
(桃木芳枝/東京農業大学生物産業学部)
研究の目的
地球温暖化は現在徐々に進行しており、今後ますます高温のため作物の低生産を余儀なくされると考えられる。夏場に頻発する異常高温の問題もあり、作物を安定的に生産するために、耐暑性作物の開発が望まれている。本研究では、植物が高温にどのように反応するか明らかにし、遺伝・育種的手法やバイオテクノロジーの手法を通じて作物の耐暑性を向上させることを目的としている。
研究の内容
- 耐暑性サヤインゲン品種の生理学的特徴を明らかにする。
- 耐暑性に関与すると考えられるヒートショックプロテイン(HSP)の遺伝子とペルオキシソーム膜結合型活性酸素消去遺伝子(pAPX)を用いて、モデル植物とイネ、アズキ等作物の耐暑性が 向上するかどうかを検討する。
- 耐暑性インゲンマメ品種の根において、顕著な活性を示すアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の細胞圧ポテンシャルに対する影響を調べ、水吸収能との関係を検討する。さらに、トウモロコシ幼苗からのAChE精製法を確立し、アミノ酸配列を基にAChE遺伝子の全塩基配列を決定する。
- 既存の遺伝資源として、熱帯地域に自生するアズキ野生種の耐暑性関連遺伝子領域を特定し、アズキへの導入を試みる。
主要な成果
- サヤインゲンを用いて、耐暑性品種は高温による花蕾の浸透ポテンシャル低下の程度が緩やかであること、吸水能力が高く、高温および強光下で日中の蒸散速度を高く維持できること、水吸収の制御が一部AChEによって行われていることを明らかにした。
- トマトのミトコンドリア型スモールヒートショックプロテイン(Mt-sHSP)が分子シャペロン機能を有し、本遺伝子を導入したタバコは耐暑性を示した。また、本遺伝子を導入したアズキの作出にも成功した。らん藻のHSP70の遺伝子(DnaK)を導入したタバコとイネは高温ストレス下で良く成長し、種子の収量が約2倍に増大した。
- pAPX遺伝子を導入したアラビドプシスは栄養成長期の耐熱性が向上し、生殖期での種子の収量が増大した。
- トウモロコシ幼苗からAChEを精製し、活性を示す精製画分に88および44kDaの2種のタンパク質を確認した。これら2つのAChE候補タンパク質のN末端および内部アミノ酸配列を分析し、遺伝子の全塩基配列を決定した。
- アズキのDNAマーカー地図を作製し、熱帯地域に自生するアズキ野生種に耐暑性(高温下で花粉稔性を高く維持する性質)に関連する2種類のQTLが存在することを明らかにし、アズキへの導入を試みている。
主な発表論文
- Liu J. & M. Shono : Characterization of mitochondria-located small heat shock protein from tomato (Lycopersicon esculentum) : Plant Cell Physiol. 40 : 1297-1304 (1999)
- Shi W. M., et al. : Cloning of peroxisomal ascorbate peroxidase gene from barley and enhanced thermotolerance by overexpressing in Arabidopsis thaliana : Gene 234 : 315-321(2001)
- Ono K., et al. : Overexpression of DnaK from a halotolerant cyanobacterium Aphanothece halophytica enhances the high-temperature tolerance of tobacco during germination and early growth : Plant Sci., 160 : 455-461 (2001)
- Suzuki K., et al, : Decrease of pollen stainability of green bean at high temperatures and relationship to heat tolerance : J. Ame.Soc. Hort. Sci., 126 (5):571-574 (2001)
- Tsukaguchi T., et al. : Water status of flower buds and leaves as affected by high temperature in snap bean (Phaseolus vulgaris L.) cultivars contrasting heat tolerance : Plant Prod. Sci., in press.
- Momonoki Y. S., et al. : Acetylcholine as a signaling system to environmental stimuli in plants III. Asymmetric solute distribution controlled by ACh in gravistimulated maize seedlings : Plant Prod. Sci., 1 : 83-88 (1998)
研究のイメージ
