生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2002年度 研究成果

ホモロガス・リコンビネーションによる標的遺伝子の破壊技術の開発と応用

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • 半数世代の植物体を利用した相同組み換えによる遺伝子破壊技術の推進
    (◎和田正三/東京都立大学大学院理学研究科)
  • 高等植物における相同組み換え系の解析と遺伝子ターゲッティング技術の開発
    (市川裕章/独立行政法人農業生物資源研究所)

研究の目的

機能未知の遺伝子機能の解析には相同組み換えによる遺伝子破壊が有効であるが、一般に植物では導入遺伝子がゲノム上にランダムに挿入され、意図的に遺伝子を特定領域に組み込むことは極めて難かしい。本研究では、塩基配列が既知の標的遺伝子を、DNA相同組み換えを介して破壊あるいは改変する手法、および標的遺伝子の機能発現を抑制する遺伝子サイレンシング技術の開発を目的とした。

研究の内容

半数世代が長い生活史をもつ生物では相同組換えの頻度が高いものが多いことに着目し、シダ配偶体やイネ葯培養カルスを用いて、標的遺伝子を破壊する技術を開発する。またシダにおける遺伝子サイレンシングに関する研究を行う。
高等植物における相同組み換え能力を向上させるため、相同組み換えやDNA修復に関与する遺伝子を単離し、解析する。また改変した標的遺伝子を二倍体植物に導入し、相同組み換えが起こった個体を効率よく選抜し、解析する。

主要な成果

  • シダ配偶体世代において、標的遺伝子の遺伝子断片、またはそのcDNA断片をパーティクルボンバートメントにより細胞内に導入すると、エクソンであれば500bpの短い断片でも効率的に遺伝子サイレンシングを誘導できることを発見し、DNAi法と命名した。
  • DNAi法では、PCR法で増幅したDNA断片で十分効果があること、同時に複数の遺伝子を導入しても有効であることなど、機能未知遺伝子の機能解析には簡便かつ有効な方法であることを明らかにした。この方法によりphytochrome3遺伝子の機能を解明した。
  • 副次的な結果として、解析のために用いた葉緑体光定位運動現象の光受容体の同定とその機能を明らかにした。
  • Rad51様遺伝子など植物の相同組み換え関連遺伝子をアラビドプシスとイネより11種クローン化した。Rad52経路遺伝子の発現は、DNA損傷を誘発するγ線照射により上昇することを見出した。またRad52経路タンパク質間の相互作用を解析し、高等植物のRad52経路タンパク質は高等動物と同様な複合体を形成することを明らかにした。
  • シロイヌナズナやイネにおいて、Rad52経路遺伝子の過剰発現、CAF(chromatin assembly factor)遺伝子のノックアウト、一本鎖DNA切断酵素遺伝子の導入等により、相同組み換え頻度が向上することを見出した。
  • 除草剤耐性型の改変Acetolactate synthase(ALS)遺伝子を導入したシロイヌナズナ後代から除草剤耐性個体が選抜され、解析の結果、相同組換え個体を得ることに成功した。イネの葯培養カルスの系においてもWaxy遺伝子の相同組み換えに成功した。

主な発表論文

  • Kagawa T., et al. : Arabidopsis NPL1 : A phototropin homologue controlling the chloroplast high-light avoidance response : Science, 291 : 2138-2141 (2001)
  • Kinoshita T., et al. : phot1 and phot2 mediate blue light regulation of stomatal opening : Nature, 414 : 656-660 (2001)
  • Kasahara M., et al. : Chloroplast avoidance movement reduces photodamage in plants : Nature, 420 : 829-832 (2002)
  • Osakabe K., et al. : Molecular cloning and characterization of RAD51-like genes from Arabidopsis thaliana : Plant Mol. Biol., 50 : 71-81 (2002)
  • Kawai H., et al. : Responses of ferns to red light are mediated by an unconventional photoreceptor : Nature,421:287-290 (2003)

研究のイメージ

ホモロガス・リコンビネーションによる標的遺伝子の破壊技術の開発と応用