研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)
- 卵子の死滅予防法と新しい排卵誘発法の開発
(◎佐藤英明/東北大学大学院農学研究科) - 超未成熟卵子の凍結保存法と体外培養胚の作出法の開発
(星 宏良/(株)機能性ペプチド研究所)
研究の目的
雌家畜は卵巣に多くの卵子(超未成熟卵子を含む)をもつが、大多数は死滅する。現行の排卵誘発法や卵子の体外成熟・体外受精技術では、卵子の死滅は予防できず、また、きわめて少数の受精可能卵子しか作れない。優良雌家畜を使って家畜の改良を図るには、卵巣にある多くの卵子を受精可能にする技術の開発が必要である。本研究では、新しい発想に基づき、血管系を調節する排卵誘発法や超未成熟卵子の体外培養法を開発する。
研究の内容
- 卵子は発育・成熟卵胞の中で受精可能となるが、卵胞の発育・成熟を促進する性腺刺激ホルモンは卵巣の血管網を通って卵胞に到達し、その効果を発揮する。血管網が退行すると卵胞は閉鎖し、卵子は死滅する。そこで、卵胞血管網の増殖促進因子、卵母細胞の生存促進因子およびこれらの遺伝子を同定し、同定した因子や遺伝子を用いる卵胞発育促進・閉鎖抑制法を開発する。
- 超未成熟卵子の発育と成熟のメカニズムを明らかにするとともに、発育促進因子の検索・同定を行い、超未成熟卵子の完全発育を可能とする体外培養システムを確立する。また、超未成熟卵子における低温や凍結時における損傷やその防御のメカニズムを解明し、凍結融解後に高い生存性を示す超未成熟卵子の凍結保存法を開発する。
主要な成果
- 甲状腺ホルモンがラット卵巣の血管新生を促進し、死滅へ至る卵子を救助することを明らかにした。また、甲状腺ホルモンが卵巣の血管内皮細胞増殖因子(特にVEGF)の発現を促進することを明らかにし、さらにTAP発現ベクターに組み込んだVEGF遺伝子を卵巣に注射することによって、卵胞発育促進・閉鎖抑制に成功した。このようにして救助した卵子由来の新生子の誕生に成功した。
- ブタ及びミニブタ卵巣の卵胞発育・閉鎖と血管網の相関を明らかにするとともに、卵巣血管網の増殖に係わる因子とその遺伝子を同定した。
- ブタ及びミニブタ卵巣皮質にブタVEGF遺伝子を直接注射し、卵胞発育促進・閉鎖抑制に成功した。
- 超未成熟卵子を含むウシ前胞状卵胞の発育に必須の生理活性因子を同定し、また、長期間(一ヶ月以上)、卵胞の体外発育培養を可能とする卵胞_間質細胞共培養法を開発した。
- 超未成熟卵子を完全発育させる体外培養法の開発に成功し、体外成熟・体外受精・体外胚培養で移植可能胚(胚盤胞)を作出した。この胚を仮腹牛に移植したところ、受胎を確認し、現在妊娠継続中である。
- 前胞状卵胞の凍結保存形態の工夫、及びガラス化凍結保存法の改良により卵胞の凍結保存を可能にした(特許申請中)。
- 培養下での卵成熟開始に伴うMAPキナーゼの活性化にヒアルロン酸・CD44系のシグナルが係わることを明らかにした。
主な発表論文
- Jiang J.Y., et al. : Follicular microvasculature in the porcine ovary : Cell Tissue Res., 310 : 93-101 (2002)
- Jiang J.Y., et al. : Capillary angiogenesis and degeneration in bovine ovarian antral follicles : Reproduction : in press.
- Shimizu T., et al. : Changes of messenger RNA expression of angiogenic factors and related receptors during follicular development in gilts : Biol.Reprod., 67 : 1846-1852 (2002)
- Itoh T., et al. : Growth, antrum formation, and estradiol production of bovine preantral follicles cultured in a serum-free medium : Biol Reprod., 67 : 1099-1105(2002)
- Itoh T., Hoshi H. : Efficient isolation and long-term viability of bovine small preantral follicles in vitro : In Vitro Cell Dev. Biol., 36 : 235-240(2000)
研究のイメージ
