研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)
- 病原性低下因子の探索と評価
(◎松本直幸/独立行政法人農業環境技術研究所) - 病原性低下因子導入技術の開発及び導入菌株の作出
(吉田幸二/独立行政法人農業技術研究機構果樹研究所) - 病原性低下因子の分子学的機能解明
(大津善弘/独立行政法人農業技術研究機構果樹研究所) - ユニバーサルイノキュラムの開発
(森永 力/広島県立大学生物資源学部)
研究の目的
果樹類の土壌伝染性病害である紋羽病の防除には、農薬の土壌潅注などが有効であるが、その効果は一時的である。それに対し、生物防除は永続的な効果が期待される反面、拮抗菌を定着させることが困難である。拮抗菌の活動に好適な土壌環境を維持管理するのには多大な労力を要し、根系が広く永年性の果樹では特に難しい。
そこで、菌類ウイルスに由来する病原性低下因子(dsRNA)を利用して、罹病果樹に感染している紋羽病菌の病原力を低下させることで、紋羽病を治療する生物防除法(図1)を開発する。dsRNAは病原糸状菌の病原力を低下させ、その細胞質中でのみ定着・増殖するので、土壌条件に影響されず、その効果は半永久的である。しかし、dsRNAは、細胞質不和合性の菌株間(融合細胞は死滅する。図2)では伝播しないので、病原性低下因子の探索以外に、任意菌株への感染方法も確立する。
研究の内容
本研究における遺伝子治療では、dsRNAに感染させた培養菌(ユニバーサルイノキュラム)を植物根部の病原菌(野生株)と接触させ、野生株にdsRNAを感染させることで病気を治療しようとするものである(図1)。本研究では、1紋羽病菌の菌学的基礎知見を集積するとともに、治療効果の高いdsRNAの探索・評価を行い、2野生株への効率的なdsRNA導入法を開発し、3病原性低下因子の機能を分子生物学的に解明し、また4どのような野生株にも適合した接種源(ユニバーサルイノキュラム)を作成する。
主要な成果
- 従来、知見の乏しかった紋羽病菌に関する生態学的、分類学的基礎知見を蓄積した。
- 紫紋羽病菌、白紋羽病菌のいずれからも病原力低下作用のあるdsRNAが検出された(図3)。
- 紫紋羽病菌においては、モノカリオン(一核菌糸体、図4)をベクターとして利用することにより、細胞質和合性の異なる菌株へのdsRNA導入に成功し、病原力の低下した菌株を作出した。白紋羽病菌では、精製ウイルスやcDNAをプロトプラストを介して任意の菌株にdsRNAを導入する系を確立した。
- 両紋羽病菌弱病原力菌株数株から見いだされたdsRNAの塩基配列及び関連ウイルス粒子の性状等を解析し、新規ウイルス3種を同定した。
- ユニバーサルイノキュラム作出のための基礎知見として、両紋羽病菌の核相及び生活環をあきらかにし候補となる菌株をスクリーニングした。
主な発表論文
- Arakawa M., et al. : Presence and distribution of double-stranded RNA elements in the white root rot fungusRosellinia necatrix : Mycoscience, 43 : 21_26(2002)
- Sasaki A., et al. : Extending chestnut blight hypovirus host range within Diaporthales by biolistic delivery of viral cDNA : MPMI, 15 : 780_789(2002)
- Osaki H., et al. : Nucleotide sequences of double-stranded RNA segments from a hypovirulent strain of the white root rot fungus Rosellinia necatrix : possibility of the first member of the Reoviridae from fungus : Virus Genes, 25 : 101_107(2002)
- Aimi T., et al. : Cytological analysis of anastomosis and vegetative incompatibility reaction in Helicobasidium mompa : Curr. Microbiol., 44 : 148_152 (2002)
研究のイメージ
