研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- アクティベーション・タギング法を用いた植物の耐寒性関与遺伝子群の探索
(西田生郎/東京大学大学院理学系研究科) - 植物耐寒性関与遺伝子のアクティベーション・タギング法による分離と遺伝子導入による植物耐寒性の改良
(和田 元/東京大学大学院総合文化研究科) - 耐凍性増大の分子的メカニズムに関する基礎的研究:生体膜の安定性に注目して
(◎上村松生/岩手大学農学部) - 高耐寒性植物に存在する凍結制御機構に関わる分子機能の解析
(石川雅也/独立行政法人農業生物資源研究所) - 低温誘導遺伝子の耐凍性に及ぼす機能的役割の解析
(藤川清三/北海道大学大学院農学研究科)
研究の目的
地球温暖化が進行している現在でさえ、低温は世界の作物生産に影響を与える最大不安定要因の一つである。事実、世界各地で頻発する局地的異常低温により毎年膨大な凍霜害が発生している。本研究では、分子生物学的および生理・生化学的研究により植物の耐寒性を総合的に理解した上で、高耐寒性作物を作成する際に広範囲に利用できる分子育種論構築に必要な基礎的、および、網羅的な情報を得ることを目的とした。
研究の内容
- アクティベーション・タギング法などを用いて新規耐寒性関連遺伝子群及びその調節因子を探索・同定した。
- 耐寒性の程度や機構の異なる植物を用いて耐寒性獲得(低温馴化)分子機構の総合的解析を試みた。
- 耐寒性獲得過程で起こる様々な物質変動及び細胞膜変動の機能評価を行った。
- 耐寒性関連遺伝子群にコードされる最終産物の耐寒性に関する分子機能をin planta 及びin vitroで解析した。
主要な成果
- Arabidopsis変異株frt1は成熟した葉序の糖レベルが野生型より高いため、高い耐凍性を示すことを見いだした。
- Arabidopsis胚軸カルスアクティベーション・タグライン解析から耐凍性増大に関与する26候補遺伝子を同定した。
- Arabidopsis耐凍性増大過程で変動する細胞膜タンパク質lipoprotein-like proteinの耐凍性増大への関与を見いだした。
- 植物組織から氷核活性物質を活性のあるまま単離することに成功し、その特徴や組成を明らかにした。
- 高耐凍性を示す北方樹木の冬季蓄積タンパク質のin vitro凍害保護機能とin planta耐凍性向上機能を明らかにした。
見込まれる波及効果
耐寒性関与遺伝子や耐寒性関与物質の代謝過程関連遺伝子を用いた高耐寒性作物作成のための分子育種論構築が可能になった。凍結制御物質は、細胞の超低温保存法や食品産業(冷凍保存食品の品質・食味向上など)へ応用できる。
主な発表論文
- Takagi T., et al.: The leaf-order-dependent enhancement of freezing tolerance in cold-acclimated Arabidopsis rosettes is not corre- lated with the transcript levels of the cold-inducible transcription factors ofCBF/DREB1: Plant Cell Physiol., 44:922-931 (2003)
- Sakurai I., et al.: Requirement of phosphatidylglycerol for maintenance of photosynthetic machinery: Plant Physiol., 133:1376-1384 (2003).
- Kawamura Y. & M. Uemura: Mass spectrometric approach for identifying putative plasma membrane proteins ofArabidopsis leaves associated with cold acclimation: Plant J., 36:141-154 (2003).
- Sekozawa Y., et al.: Seasonal changes in the ice nucleation activity of various tissues in Japanese pear (Pyrus pyrifolia Nakai) in relation to their freezing behavior and frost injury: Acta Hortic., 587: 543-547 (2002).
- Ukaji N., et al.: Cold acclimation-induced WAP27 localized in endoplasmic reticulum in cortical parenchyma cells of mulberry tree was homologous to group 3 late-embryogenesis abundant proteins: Plant Physiol., 126:1588-1597 (2001).
研究のイメージ
