研究項目及び実施体制)
新規昆虫起源セルラーゼ遺伝子の探索と分子系統関係の解明
(渡辺 裕文/独立行政法人農業生物資源研究所)
研究の目的
現在のセルラーゼ研究は,様々な酵素の組み合わせとそれらの相乗効果によってセルロースを分解する糸状菌のセルラーゼ系や様々な酵素を束ねるセルロソームと呼ばれる細菌細胞表面構造物を中心にしている。しかしながら応用分野では大量生産に向くシンプルな酵素系が求められる。食材性昆虫類のセルロース消化系は,そしゃく器官と3種類以下の単純な構造の酵素を組み合わせたシンプルなもので応用利用に好適である。こうした食材性昆虫類セルラーゼとその遺伝子を収集し,それらを改変選抜することにより,高pH耐性や高温耐性や微生物を使ったリコンビナント生産適性など,洗剤添加剤・パルプ改質・バイオマス転換などの酵素素材となりうる新規セルラーゼを収集・作出することを目的とした。
研究の内容
シロアリ類・カミキリムシ類を中心とした食材性昆虫類より,昆虫自身と共生微生物が作り出す様々なセルラーゼとその遺伝子を精製・クローニングし,その性質を解明した。また,これらのセルラーゼ遺伝子にDNAシャフリング法(類似した遺伝子のランダムな相同組替え)などで改変を加え,改変遺伝子ライブラリーを微生物に形質転換し,優れたセルラーゼを取り込んだ株がセルロースを栄養源として生きのこることによりセルラーゼ遺伝子が選抜されるシステムの構築を目指した。
主要な成果
- シロアリ類30種類あまりの新規セルラーゼ遺伝子に加えて,シロアリ類共生原生生物由来の新規セルラーゼ遺伝子およびカミキリムシを中心とした甲虫類のセルラーゼ遺伝子をなど高等動物および共生原生生物由来の新規セルラーゼ遺伝子50種あまりを発見・クローニングした。
- シロアリセルラーゼ遺伝子組換え酵母と非組換え酵母の生育速度の差を検出しうる培養系を構築し,進化工学手法(改変異種起源遺伝子を組み込んだ改変微生物の淘汰・選抜により目的の機能をもつ改変遺伝子を選抜する手法)による食材性昆虫類セルラーゼ選抜のための基礎的知見を得た。加えて大腸菌をホストとした高pH・高温活性による選抜系を構築した。
見込まれる波及効果
本研究で得られた様々な動物セルラーゼ遺伝子は,洗剤添加剤・パルプ改質・脱インキなどの分野で新たな応用素材として活用される可能性がある。また,食材性昆虫類がもつそしゃく器官(ミル)と単純な酵素の組み合わせはバイオマスコンバージョンの理想型でありバイオマス転換技術の発展に資するだろう。
主な発表論文
- Keisuke Nakashima et al. Dual cellulose digesting system of the wood-feeding termite, Coptotermes formosanus (Shiraki). Insect Biochemistry and Molecular Biology 32:777-784 (2002)
- Hirofumi Watanabe et al. New endo-beta-1,4-glucanases and their precursor cDNAs from the symbiotic protozoa of Coptotermes termites. Cellular Molecular Life Sciences 59:1983-1992 (2002)
- Keisuke Nakashima et al. Cellulase genes from the parabasalian symbiont Pseudotrichonympha grassii in the hindgut of the wood-feeding termite Coptotermes formosanus. Cellular Molecular Life Sciences 59:1554-1560 (2002)
- Gaku Tokuda1, Hitoshi Saitoh, and Hirofumi Watanabe. A digestive beta-glucosidase from the salivary glands of the termite, Neotermes koshunensis (Shiraki): distribution, characterization and isolation of its precursor cDNA by 5'- and 3'-RACE amplifications with degenerate primers. Insect Biochemistry and Molecular Biology 32:1681-1689 (2002)
- Masahiro Sugimura, Hirofumi Watanabe, Nathan Lo, and Hitoshi Saito. Purification, characterization, cDNA cloning and nucleotide sequencing of a cellulase from the yellow-spotted longicorn beetle, Psacothea hilaris. European Journal of Biochemistry 270:3455-3460 (2003)
研究のイメージ
