研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- インスレーターの検索とその分子機構の解明
(◎赤坂甲治/東京大学大学院理学系研究科) - インスレーターの抗メチル化効果の解析
(田嶋正二/大阪大学 蛋白質研究所) - 植物におけるインスレーターの機能解析とそれを利用したワクチン安定生産植物の作製
(吉田和哉/奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科) - インスレーターを利用した導入遺伝子の持続的発現技術の開発に関する基礎研究
(松岡雅雄/京都大学ウイルス研究所) - インスレーターを用いた遺伝子の高発現組換えクロ-ン家畜の作出
(安江 博/独立行政法人農業生物資源研究所))
研究の目的
有用動植物作出、遺伝子治療などさまざまな分野で遺伝子導入が行われている。しかし、導入した遺伝子は時間の経過とともに不活性化される問題があった。当該研究はインスレーター(クロマチンの境界)を利用し、導入遺伝子を安定的に発現させる技術を開発することを目的とする。
研究の内容
- インスレーターArsINSの分子機構及び、ヒトゲノム由来新規インスレーターの単離。
- マウス培養細胞におけるArsINSの外来遺伝子発現維持効果とDNAメチル化の解析。
- ワクチンタンパク質トランスジェニックイチゴの作製及びマウス個体を使った免疫誘導の検出系の確立。
- 遺伝子治療用ArsINSレンチウイルスベクターの作成と抗サイレンシング機能の解析。
- 最も効率のよいArsINSベクターの開発および、動物個体の継代による導入遺伝子の発現レベルの解析。
主要な成果
- ArsINS結合新規核マトリクスタンパク質Unichromはポジション効果にかかわることを明らかにした。
- ArsINSはヒストン修飾とは独立して遺伝子のメチル化を防ぐ機能をもつ可能性を示した。
- ワクチンタンパク質遺伝子導入イチゴを作製し、マウス個体を用いた免疫誘導活性検出系を確立した。
- ArsINSは遺伝子治療用ベクターの開発に極めて有用であることを証明した。
- 外来遺伝子を最も効率よく安定的に発現させるためのArsINSベクターを開発した。さらに、ArsINSベクターを利用した高発現体細胞トランスジェニックブタが得られた。
見込まれる波及効果
インスレーターの分子機構が明らかになったことにより、より効率的なインスレーターの応用に向けた研究計画が可能になった。また、ArsINSの導入遺伝子安定発現機能により、トランスジェニック植物の高機能化、安定的遺伝子治療、幹細胞への遺伝子導入による再生医療、有用物質産生家畜の作出が容易になると期待される。
主な発表論文
- Moritani K., et al. A new G-stretch-DNA-binding protein, Unichrom, displays cell cycle dependent expression in sea urchin embryos. Dev. Growth & Differ. 46: 335-341, (2004)
- SuetakeI., et al. DNMT3L stimulates DNA methylation activity of Dnmt3a and Dnmt3b through a direct interaction. J. Biol. Chem. 279: 27816-27823 (2004)
- Nagaya S. et al. An insulator element from the sea urchin Hemicentrotus pulcherrimus suppresses variation in transgene expression in cultured tobacco cells. Mol. Genet. Genomics 265: 405-413 (2001)
- Hino S Fan J., et al. Sea urchin insulator protects lentiviral vector from silencing by maintaining active chromatin structure.Gene Therapy 11:819-28 (2004)
- Fujisaki S., et al. Analysis of a full-length cDNA library constructed from swine olfactory bulb for elucidation of expressing genes and their transcription initiation sites. J. Veterinary Medical Science 66(1):15-23 (2004)