研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- イネの草型を制御する植物ホルモン情報伝達の分子機構解明と育種への応用
(◎小松節子/独立行政法人農業生物資源研究所) - イネ矮化遺伝子の単離と機能解析および草型育種への応用
(北野英己/名古屋大学生物機能開発利用研究センター)
研究の目的
イネの生活環の調節に大きく関与しているジベレリンやブラシノステロイド等の情報伝達機構あるいは生合成系を、分子遺伝学的・タンパク質化学的手法、およびゲノム情報を利用することにより解明する。さらにその情報伝達系・生合成系を人為的に制御することにより、理想的な草型を持つ健全次世代型多収性イネの素材開発を目指す。
研究の内容
イネの草型に関与するジベレリン・ブラシノステロイドに関連する突然変異体群をスクリーニングし、それらの原因遺伝子を単離し機能解明した。イネの草型制御において、ジベレリン・ブラシノステロイドの情報が受容・伝達され機能発現に至る情報伝達機構を解明した。さらに解析した植物ホルモンの情報伝達系・生合成系を人為的に制御することにより理想的な草型を持つイネ育種素材を開発した。
主要な成果
- 大規模な変異集団からジベレリンおよびブラシノステロイド関連変異体を選抜した。分子遺伝学的手法によりそれらの原因遺伝子(gid1, gid2, slr1, d61, brd1, d2)の単離・解析に成功した。
- ジベレリンおよびブラシノステロイドの生合成や情報伝達に関わる原因遺伝子群を単離した。中でもイネの緑の革命に貢献したsd1変異体の原因となった遺伝子が、GA20酸化酵素をコードしていることを明らかにした。
- ジベレリンおよびブラシノステロイド情報伝達に関わるタンパク質遺伝子群を単離し機能発現系を解析した。特にカルシウムを介するリン酸化情報伝達系がイネの茎葉伸長・根の成長に重要であることを明らかにした。
- 活性型ジベレリン分解酵素GA2ox2およびブラシノステロイド受容体BRI1をコードする遺伝子を導入した形質転換イネ「こしひかり」は、半矮性・直立葉を示した。
見込まれる波及効果
従来個々の機能性タンパク質遺伝子として情報伝達機構に関与していることが報告されてきた物質の相互作用が解明されたことにより、生物学基礎研究の発展が期待される。イネの草型に関与する原因遺伝子群の単離は、今後分子育種による草型改良により、世界の食糧増産に向けて大きな波及効果を持つ。
主な発表論文
- Ito H., et al. The gibberellin signaling pathway is regulated by appearance and disappearance of SLENDER RICE 1 in nuclei.Plant Cell 14:1-16(2002)
- Sasaki A.,et al. Accumulation of phosphorylated repressor for gibberellin signaling in an F-box mutant. Science 299: 1896-1898(2003)
- Sakamoto T., et al. Genetic manipulation of gibberellin metabolism in transgenic rice. Nature Biotech 21: 909-913(2003)
- Jan A., et al. Characterization of xyloglucan endotransglucosylase gene that is up regulated by gibberellin in rice leaf sheath. Plant Physiol 136: 3640-3681(2004)