研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- ミヤコグサのゲノム解析を基にした根粒形成遺伝子群の系統的単離と機能解析
(◎川崎 信二/(独)農業生物資源研究所生理機能研究グループ) - ミヤコグサとダイズのシンテニーを利用した遺伝子単離システムの開発
(原田 久也/千葉大学園芸学部) - 根粒菌ゲノムの機能分析による共生窒素固定遺伝子群の系統的単離
(佐伯 和彦/奈良女子大学理学部)
研究の目的
根粒菌との共生による窒素固定能や高タンパク含量の種子等、他の植物に見られない機能を持つマメ科植物のモデル植物・ミヤコグサや主要作物のダイズ、それらと共生する根粒菌のゲノムや変異体を分析することにより、これまで未知であった根粒形成に至る情報伝達過程を植物・根粒菌の両サイドから解明することを目的とする。
研究の内容
ミヤコグサとダイズについて高密度分子地図とゲノムライブラリーとを作製し、これらをもとに根粒形成過程やそれに関連する機能についての変異体の原因遺伝子をポジショナルクローニングにより単離同定する。得られた遺伝子の機能を分析することにより根粒着生に至る情報伝達の過程の解明を試みる。根粒菌については、整列化ゲノムライブラリーや系統的部分ゲノム欠損株の機能分析により正常な根粒を形成するのに必要な菌側での因子群を明らかにする。
主要な成果
ミヤコグサとダイズについてそれぞれ1700,1061マーカーからなる高密度分子地図と高品位のゲノムライブラリーとを作製した。根粒菌については整列化コスミドライブラリーと一連の系統的な部分ゲノム欠損株の作製法を開発し、それぞれの菌株の根粒着生能力の分析からpurB, argF等根粒形成・根粒細胞内への侵入に必須な遺伝子群を同定した。
これらの成果をもとにミヤコグサの根粒形成の初期過程の変異体Ljsym70,71,72,86の原因遺伝子を単離した。Ljsym71,86の原因遺伝子は極めて類似した、プロプラスチドに局在するイオンチャネル分子ペアをコードしていた。プラスチドの情報伝達への関与が示されたのは始めてのことである。Ljsym72の原因遺伝子はカルシウム依存性タンパク質リン酸化酵素をコードしており、根粒形成を始動する各種遺伝子の転写を制御するとも考えられるLjsym70の原因遺伝子産物をリン酸化で活性化させている可能性が高まった。これらが根粒形成のための情報伝達のコア部分を形成するものと考えられる。ダイズでは根粒の超着生変異体Nts1の原因遺伝子が、ミヤコグサの原因遺伝子HAR1と共に同定され、シグナル分子受容体構造ロイシンリッチリピートを細胞外に向けて細胞表層に存在するのが示された。
見込まれる波及効果
マメ科植物と根粒菌の両側から根粒形成の過程が解明されることにより、将来は主要作物や緑化植物等に根粒形成能を付与して、窒素肥料の欠乏や過多による食物不足や環境破壊の解決、砂漠・荒地の緑化等に寄与すると期待される。
主な発表論文
- Imaizumi-Anraku H., et al. Plastid proteins crucial for symbiotic fungal and bacterial entry into plant roots. Nature Online J. (2004 Dec.22)
- Nishimura R., et al. HAR1 mediates systemic regulation of symbiotic organ development. Nature 420 : 426-429 (2003)
- Hayashi M., et al. Construction of a genetic linkage map of the model legume Lotus japonicus using an intraspecific F2 population. DNA Res. 8: 301-310 (2002)
- Kawasaki S., et al. Construction of high-density map, genome library, and saturation mapping of nodulation genes.Biotechnology in Agriculture and Forestry 52 Brassicas and Legumes Ed. by Nagata T. et al. (2003) Springer
- Hattori Y., et al. Ordered cosmid library of the Mesorhizobium lotiMAFF303099 genome for systematic gene disruption and complementation analysis. Plant Cell Physiol. 43: 1542-1557 (2000)
研究のイメージ
