研究の目的
スフィンゴモナス属細菌A1株は、細胞表層に形成した巨大な孔(体腔)から高分子物質を直接細胞内に取り込む巧妙な分子装置(超チャネル)を有する。本研究では、「超チャネル」の構造と機能を解析し、細菌細胞表層の動的構造と潜在的機能を明らかにする。また、「超チャネル」の分子移植により、スフィンゴモナス属細菌の特徴を活かした環境浄化能の高い「スーパー細菌」を創成し、環境問題への対処法、及び大規模細胞機能改変技術を確立する。 有用動植物作出、遺伝子治療などさまざまな分野で遺伝子導入が行われている。しかし、導入した遺伝子は時間の経過とともに不活性化される問題があった。当該研究はインスレーター(クロマチンの境界)を利用し、導入遺伝子を安定的に発現させる技術を開発することを目的とする。
研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- 高分子取り込み「超チャネル」の分子生物学的機能解析
(◎村田 幸作/京都大学大学院農学研究科) - X 線結晶構造解析による高分子取り込み「超チャネル」の構造・機能相関
(三上 文三/京都大学大学院農学研究科) - 「スーパー細菌」の創成と機能解析
(村田 幸作/京都大学大学院農学研究科)
研究の内容及び主要成果
- スフィンゴモナス属細菌A1株の全ゲノム構造を決定し、応用微生物学上重要な本属細菌の形態学的特性と機能多様性の解析基盤を構築した。
- スフィンゴモナス属細菌A1株の体腔と巨大分子輸送装置(ABC トランスポーター)の構造と機能の全容を解明し、細菌細胞表層の動的構造と器官創出機構、及び細菌の新規巨大分子資化機構の存在を示した。
- 多糖代謝関連酵素の構造生物学的解析により、触媒反応機構とタンパク質モジュールの機能の理解、進化的・分類学的考察、他酵素への分子変換、並びに新規生理機能性糖質の分子設計を可能にした。
- スフィンゴモナス属細菌A1株の「超チャネル」を他の有用細菌に分子移植することにより、環境浄化型「スーパー細菌」を創出し、本研究の目標を達成した。
見込まれる波及効果
- ダイオキシンなどの化学物質に汚染された農耕地、用水などの汚染除去のため、「スーパー細菌」を用いた実際的なバイオレメディエーションが期待できる。
- 細菌多糖(バイオマス)の食料素材などへの有効利用と新規な生理機能性糖質の分子設計が可能になる。
- 分子移植法による細胞の大規模機能改変と新規な細菌細胞の創出に途を拓く。
- 多糖リアーゼを対象とする細菌感染機構の理解と細菌感染防御に有用な方法論を提供する。
主な発表論文
- Aso Y., et al.: Engineering of the dioxin-degrading Sphingomonad, Sphingomonas wittichii RW1, by molecular transplantation of super-channel from Sphingomonas sp. A1. Nature Biotechnol., Published online: 15 Jan. (2006)
- Hashimoto W., et al.: Proteomics-based identification of outer-membrane proteins responsible for import of macromolecules in Sphingomonas sp. A1: Alginate-binding flagellin on cell surface. Biochemistry, 44(42), 13783-13794 (2005).
- Itoh T., et al.: Crystal structure of unsaturated glucuronyl hydrolase responsible for the degradation of glycosaminoglycan, from Bacillus sp. GL1, at 1.8Å resolution. J.Biol.Chem., 279(30), 31804-31812 (2004).
- Yamasaki M., et al.: Structure and function of a hypothetical Pseudomonas aeruginosa protein PA1167 classified into family PL-7.J.Biol.Chem., 279(30), 31863-31872 (2004).
- Mishima Y., et al.: Crystal structure of AlgQ2, a macromolecule(alginate)-binding protein of Sphingomonas sp. A1, complexed with an alginate tetrasaccharide at 1.6Åresolution. J.Biol.Chem., 278(8), 6552-6559 (2003).
- Momma K., et al.: Crystal structure of AlgQ2, a macromolecule(alginate)-binding protein of Sphingomonas sp. A1 at 2.0 Åresolution. J.Mol.Biol., 316(5), 1061-1069 (2002).
研究のイメージ
