生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 研究成果

花芽分化誘導における光周性過程から統御過程への新規な遺伝子ネットワークの解明

研究の目的

ゲノム解析の進んでいるシロイヌナズナ、イネとともに花芽分化誘導研究の重要な材料のアサガオを用いて花芽分化誘導の分子機構を解明する。光による花芽分化誘導、花芽分化誘導タンパク質・シグナル統御遺伝子の機能解析を進め、その過程で得られた制御遺伝子群、シグナル伝達因子などを用いて、花芽分化誘導を制御する技術の開発を目指す。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • シロイヌナズナ花芽分化誘導統御遺伝子ネットワークの解明
    (◎米田好文/東京大学大学院理学系研究科)
  • 光シグナルによる花芽分化誘導調節の分子機構の解明
    (井澤 毅/独立行政法人農業生物資源研究所)
  • 短日植物アサガオと長日植物シロイヌナズナの光周性花成誘導と概日時計の分子基盤の解明:
    タンパク質リン酸化の役割に関する研究
    (小野道之・溝口 剛/筑波大学大学院生命環境科学研究科)
  • 花芽分化誘導を制御する新規の制御因子と制御階層の解明
    (荒木 崇/京都大学大学院生命科学研究科)

研究の内容及び主要成果

  • シロイヌナズナHD-GL2型遺伝子PDF2過剰発現体ではPDF2遺伝子がFTより上流で機能することを示し、多数の早期開花突然変異体を単離・解析した。さらにPDF2と相互作用する遺伝子を同定した。
  • Hd1/Hd3aの経路がイネの光周性花芽形成の主要経路のひとつで、転写制御がシロイヌナズナと異なっていることを見つけた。Hd1が機能しない遺伝背景でも光周性花芽形成を起すキーとなる遺伝子であるEhd1遺伝子を単離した。
  • 絶対的短日植物アサガオから光周性花成誘導に関連する遺伝子を多数単離した。PnFTは非常に強い花成誘導能を持つことが分かった。シロイヌナズナでは、概日時計因子LHYとCCA1は、明暗周期下において主に花成促進因子GI、CO、FTの転写制御を介して花成制御に関わることを明らかにした。
  • シロイヌナズナを用いた研究から、長距離花成刺激(花成ホルモン、フロリゲン)の実体がFT遺伝子の産物(mRNAあるいはタンパク質)であることを提唱した。シロイヌナズナの優性の花成遅延変異体fwaは、FTタンパク質の機能を阻害することで花成を遅らせることを明らかにした。

見込まれる波及効果

永らく謎であった長距離花成刺激(花成ホルモン、フロリゲン)の実体をモデル植物シロイヌナズナで明らかにしたことで、花卉園芸植物、野菜、果樹などの開花制御への応用が期待できる。さらに、アサガオ、イネにおいても花成ホルモンに相当する遺伝子が示され、花成の調節機構が植物種毎に固有であることが示されたことは、花成時期の人為的な調節機構の開発の目標設定に対し、重要な知見を与える。

主な発表論文

  • Komeda Y.: Genetic regulation of time to flower in Arabidopsis thaliana. Annu. Rev. Plant Biol. 55 : 521-535 (2004)
  • Doi K., et al.: Ehd1, a B-type response regulator in rice, confers short-day promotion of flowering and controlsFT-like gene expression independently of Hd1. Genes Dev. 18 : 926-936 (2004)
  • Oguchi T., et al.: Genomic structure of a novel Arabidopsis clock-controlled gene, AtC401, which encodes a pentatricopeptide repeat protein. Gene 330 : 29-37 (2004)
  • Mizoguchi T., et al.: Distinct roles of GIGANTEA in promoting flowering and regulating circadian rhythms in Arabidopsis. Plant Cell 17 : 2255-2270 (2005)
    Abe M., et al.: FD, a bZIP protein mediating signals from the floral pathway integrator FT at the shoot apex.Science 309 : 1052-1056 (2005)

研究のイメージ

花芽分化誘導における光周性過程から統御過程への新規な遺伝子ネットワークの解明