研究の目的
骨格筋内に存在する筋衛星細胞は筋細胞や脂肪細胞へと分化することが可能な多能性幹細胞である。従って、その分化運命決定に関与する因子を同定できれば、その発現や産生の制御による肉用家畜経済形質の改変という新たな技術開発に繋がる。
本研究では筋衛星細胞の分化運命を決定する細胞外因子や細胞内因子を同定することを目指すとともに、得られた研究成果を肉用家畜へ応用することを念頭に、そのモデルであるシバヤギ筋衛星細胞の性質についても検討することを目的とする。
研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- 筋衛星細胞の運命決定に関与する細胞外因子の探索
(◎山内啓太郎/国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科) - 筋衛星細胞の運命決定に関与する細胞内因子の探索
(伯野 史彦/国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科) - 機能解析による筋衛星細胞運命決定機構の決定
(◎山内啓太郎/国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科)
研究の内容及び主要成果
- 筋衛星細胞の脂肪分化能が骨格筋により異なることを見出すとともに、その筋細胞、脂肪細胞それぞれへの分化運命決定には周囲に存在する筋線維の種類や状態、さらには筋衛星細胞間の情報伝達が大きく影響することを明らかにした。
- IGFシグナル強度を反映するFoxo1の細胞内局在を観察することにより筋衛星細胞が筋細胞、脂肪細胞のどちらに分化運命決定されるかをモニターする系の確立に成功した。また、IGFシグナルの強度を調節するような多数の新規細胞内因子(IRS結合タンパク質)の同定に成功した。
- 筋分化能・脂肪分化能の両方を保持したラット筋衛星細胞のクローン化に成功した。
- シバヤギ筋衛星細胞の培養系を樹立するとともに、それが筋細胞、脂肪細胞それぞれに分化可能であることを示した。
見込まれる波及効果
本研究により得られた成果は、骨格筋幹細胞の分化制御による肉用家畜の経済形質改変という画期的な技術開発へと繋がる可能性をもつ。すなわち、低脂肪で赤身を主とした肉や脂肪交雑に富む霜降り肉など、消費者の嗜好性に合わせた食肉生産が可能となる。
主な発表論文
- Yada E., et al.: Adipogenic potential of saTellite cells from distinct skeletal muscle origins in the rat. J. Vet. Med. Sci. 68: 479-486 (2006)
- Yamanouchi K., et al.: Increased adipogenicity of cells from regenerating skeletal muscle. Exp. Cell Res. 312: 2701-2711 (2006)
- Yamanouchi K., et al.: Myogenic and adipogenic properties of goat skeletal muscle stem cells. J. Reprod. Dev. 53: 51-58 (2006)
- Yamanouchi K., et al.: Both PPAR? and C/EBP? are sufficient to induce transdifferentiation of goat fetal myoblasts to adipocytes. J. Reprod. Dev. 53: 563-572 (2007)
- Yamanouchi K., et al.: 18?-glycyrrhetinic acid induces phenotypic changes of skeletal muscle cells to enter adipogenesis. Cell. Physiol. Biochem. 20: 781-790 (2007)
- Hakuno F., et al.: 53BP2S, interacting with insulin receptor substrates, modulates insulin signaling. J. Biol. Chem. 282: 37747-37758 (2007)
研究のイメージ
