生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 研究成果

高温・乾燥等の環境ストレスによる不稔誘発機構の解明とその制御

研究の目的

イネをはじめとする農作物が良好に結実するためには、一定の気候条件が必要である。結実に直結する生殖過程は環境条件に敏感であり、不良条件下では不稔が引き起こされる。本研究では、高温ストレスによる稔性低下のしくみを解析することにより、それに対する防御手段を探ることを目的とする。具体的には、正常な生殖反応に働く遺伝子の機能を明らかにするとともに、環境条件によって発現量が大きく増減する生殖特異的遺伝子を同定し、その遺伝子が生殖反応にどのように寄与しているのかを明らかにすることによって、ストレスを受けても稔性を保つイネの開発へとつながる手がかりを得る。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 生殖器官特異的遺伝子の過剰発現・ノックダウン解析
  • 環境条件による生殖器官特異的遺伝子の発現変動の解析
    (◎川岸 万紀子/独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所)

研究の内容及び主要成果

  • イネの葯特異的に発現する新規遺伝子をおよそ40種類選定し、過剰発現あるいは発現抑制による影響を解析することによって、生殖反応における遺伝子機能を考察した。特に重要な遺伝子として、葯特異的転写因子遺伝子とワックス合成関連遺伝子が同定され、これらの遺伝子の機能が失われると不稔になることが示された。
  • 花粉の観察や交配実験の結果などから、柱頭上に付着する花粉の数が著しく少ないことが、小胞子期の高温ストレスによる不稔の原因であると考えられた。マイクロアレイ解析により、高温処理開始後2日目のmRNAレベルが低下する一群の遺伝子を同定し、これらの遺伝子が主にタペート組織に発現していることを明らかにした。以上のことから、高温によって一群の葯特異的遺伝子の発現制御が阻害を受け、タペートの機能が一部損なわれて、花粉と柱頭との相互作用能が低下するというモデルが立てられた。

見込まれる波及効果

本研究の成果により、葯特異的遺伝子の高温ストレスに対する応答性が明らかとなったので、生殖制御に重要な遺伝子の発現を補完することにより、ストレスによる不稔性を軽減できる可能性がある。また、イネ以外の作物への応用も可能であり、それぞれの作物について、適応できる気象条件がひろがることによって、現在の産地ではない地域での栽培も期待できる。

主な発表論文

  • Park, J.-I., et al. : Molecular characterization of two anther-specific genes encoding putative RNA-binding proteins, AtRBP45s, in Arabidopsis thaliana.Genes Genet. Syst. 81 : 355-359 (2006)
  • Oshino, T., et al. : Premature progression of anther early developmental programs accompanied by comprehensive alterations in transcription during high-temperature injury in barley plants. Mol. Genet. Genomics 278 : 31-42 (2007)

研究のイメージ

高温・乾燥等の環境ストレスによる不稔誘発機構の解明とその制御