研究の目的
世界人口の半数の主食として最重要穀物であるイネは、詳細なゲノム配列解析が2004年末に終了し、各種の系統、完全長cDNAやタグライン等のリソースが整備されている。それ故、穀類のモデル植物としても、また育種上からも、イネの内在性のゲノム配列を自在に改変して、未知遺伝子の機能を解明したり、育種上重要な形質を賦与できるような技術開発が望まれている。また、従来のイネの挿入変異作出による遺伝子同定法には、高頻度の培養変異が同時に起こり得ることも知られており、培養変異を伴わない挿入変異作出法も望まれていた。本研究は、これらの問題を解決すべく逆遺伝学的新技術の創出をめざし、さらに、シロイヌナズナなど極く一部のモデル植物でしか解析されてはいない、エピジェネティクス関連遺伝子、特にDNAメチル化関連遺伝子変異体を新たに分離して、イネのエピジェネティクな発現制御機構を解明することを目的とする。
研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- 遺伝子ターゲティングとタギングによるイネゲノムの機能解析
(◎飯田 滋/自然科学研究機構基礎生物学研究所) - イネのDNAトランスポゾン挿入変異系統の効率的作出と機能解析
(前川雅彦/岡山大学資源生物科学研究所)
研究の内容及び主要成果
- DNAメチル化関連の10遺伝子を初め合計13遺伝子の改変に成功して、相同組換による遺伝子ターゲティング法の開発に成功し、イネのDNAメチル化関連遺伝子の機能について有用な知見を得た。
- レポーター遺伝子を標的遺伝子と置換えて、標的遺伝子の発現活性を解析することに成功した。
- 標的遺伝子に効率よく点変異を導入できることを見出し、任意の変異導入法の基盤を確立した。
- イネの内在性DNAトランスポゾンnDartを用いた培養変異を伴わない挿入変異作出法であるタギング法の確立に成功し、DNAトランスポゾンの特性を解析して、複数の育種上重要な変異を分離できた。
見込まれる波及効果
本研究で開発した相同組換による遺伝子ターゲティング法は、任意の変異をゲノムの導入する変異創成法なので、望ましい変異を導入したイネの作出は、長期的には農林水産業、飲食料品産業、醸造業等々の産業や社会に影響を及ぼし、その波及効果は大きいと期待される。また、培養変異を伴わず、組換DNA技術を用いない挿入変異導入法である遺伝子タギング法による変異創成も育種等ヘの種々の波及効果が考えられる。
主な発表論文
- Iida, S., Terada, R.: A tale of two integrations, transgene and T-DNA: gene targeting by homologous recombination in rice. Curr. Opin. Biotechnol. 15: 132-138 (2004).
- Tsugane, K., et al.: An active DNA transposon nDart causing leaf variegation and mutable dwarfism and its related elements in rice. Plant J. 45: 46-57 (2006).
- Terada, R., et al.: Gene targeting by homologous recombination as a biotechnological tool for rice functional genomics. Plant Physiol. 144: 846-856 (2007).
- Nishimura, H. et al.: Distribution and mapping of an active autonomous aDart element responsible for mobilizing nonautonomous nDart1 transposons in cultivated rice varieties. Theor. Appl. Genet. 116: 395-405 (2008).
- Johzuka-Hisatomi, Y. et al.: Efficient transfer of base changes from a vector to the rice genome by homologous recombination: involvement of heteroduplex formation and mismatch correction. Nucleic Acids Res. 36: 4727-4735 (2008).
研究のイメージ
