生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 研究成果

核移植と染色体操作を組み合わせた新規手法による魚類体細胞クローンおよび遺伝子ターゲティング技術の開発

研究の目的

水産の分野でもさまざまな魚種でゲノムの解明が進められている。ゲノム情報を水産魚類産業に利用するためにはクローン技術および遺伝子ターゲティング技術などが必要である。これらの技術は哺乳動物ではすでに実用化され、クローン家畜などの新産業分野が展開している。しかし、魚類では卵割の早さなど、哺乳動物とは異なった困難さがあり、安定した技術は開発されていない。そこで本研究課題では、新しい発想を持って魚類におけるクローン技術を開発し、遺伝子ターゲティング技術へ応用することを目的とする。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 体細胞核移植法の確立に関する研究
    (◎若松佑子/名古屋大学生物機能開発利用研究センター)
  • 体細胞クローン技術の確立に関する研究
    (◎若松佑子/名古屋大学生物機能開発利用研究センター)
  • 体細胞核のリプログラミングに関する研究
    (◎若松佑子、橋本寿史/名古屋大学生物機能開発利用研究センター)
  • 遺伝子ターゲティング技術の開発に関する研究
    (橋本寿史、◎若松佑子/名古屋大学生物機能開発利用研究センター)
  • 有用魚種(キンギョ)への応用に関する研究
    (◎若松佑子/名古屋大学生物機能開発利用研究センター)

研究の内容及び主要成果

  • メダカを用いて、有核二倍体化卵を用いた新しい体細胞クローン技術を確立した。成体クローンの形成率は16%で、哺乳動物におけるクローン形成率の約3倍の高さである。
  • ドナーとレシピエントの細胞周期がクローン形成機構に関わることが示唆された。その機構の解明は基礎科学的観点のみならず、クローン形成率の更なる向上やこの技術の実用化の観点からも興味深い。
  • キンギョ水泡眼の水泡液が魚類卵の保存と魚類培養細胞の増殖促進に有効であることを発見した。
  • 遺伝子ターゲティング技術を開発するため、ターゲティングベクターのメダカ培養細胞への導入を試みた。

見込まれる波及効果

魚類におけるクローン技術の確立により、ランチュウや錦鯉などの高級観賞魚のクローン作製が可能になる。将来的にはマグロなどの高級水産魚種のクローン作製への応用も考えられる。また、遺伝子改変などの精密な遺伝子制御に基づいた水産魚種の養殖や、それらからの医薬品や高機能食品の生産など、新産業の創成にも貢献できる。希少魚種の保存に利用することも可能である。さらに、哺乳動物におけるクローン研究と情報交換が可能になることにより、畜産分野への貢献も考えられる。

主な発表論文

  • Bubenshchikova E., et al. : Generation of fertile and diploid fish, medaka (Oryzias latipes), from nuclear transplantation of blastula and four-somite-stage embryonic cells into none nucleated unfertilized eggs. Clon. Stem Cell 7 (4) : 255-264 (2005)
  • Kaftanovskaya E., et al. : Ploidy mosaicism in well-developed nuclear transplants produced by transfer of adult somatic cell nuclei to none nucleated eggs of medaka (Oryzias latipes). Dev. Growth Dif. 49 (9) : 691-698 (2007)
  • Bubenshchikova E., et al. : Diploidized eggs reprogram adult somatic cell nuclei to pluripotency in nuclear transfer in medaka fish (Oryzias latipes). Dev. Growth Dif. 49 (9) : 699-709 (2007)
  • Bubenshchikova E., et al. : Nuclear transplants from adult somatic cells generated by a novel method using diploidized eggs as recipients in medaka fish (Oryzias latipes). Clon. Stem Cell 10 (4) : 443-452 (2008)
  • Sawatari E., et al. : Cell growth promoting activity of fluid from eye sacs of bubble-eye goldfish (Carassius auratus). Zool. Sci., in press.

研究のイメージ

核移植と染色体操作を組み合わせた新規手法による魚類体細胞クローンおよび遺伝子ターゲティング技術の開発