生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 研究成果

高次タンパク質の大量発現用バクミドの開発及び応用

研究の目的

カイコは、タンパク質合成能力が極めて高く、翻訳後修飾を受ける高次タンパク質の大量発現系として知られているが、煩雑な操作や遺伝子組換えに時間を要するなど、汎用的な使用には至っていない。そこで、我々が開発した組換え作業を大腸菌で行える世界初のBmNPVバクミド系は、ハイスループット系として注目されている。しかし、プロテアーゼの働きによるカイコの液状化および組換えタンパク質の断片化、カイコ体内の蓄積による組換えタンパク質の回収率の低下、カイコ体液や脂肪体からの組換えタンパク質の精製効率の低下等、様々な問題を解決する必要がある。本研究では、プロテアーゼの欠損バクミドの開発、カイコ体液への分泌率の向上、分子シャペロンによるタンパク質の安定化、及びカイコで発現した組換えタンパク質の効率的精製法の確立を目指す。また、糖転移酵素、ヒト型抗体、膜タンパク質、ヒトやマウス由来の免疫系表面受容体、および創薬として重要度が高い7回膜貫通型のG protein coupled receptors (GPCR)の発現・精製法を確立し、本バクミドの汎用性を立証する。また、バキュロウイルス表面にヒトやマウス由来の受容体の提示、ヒトやマウス細胞への遺伝子導入や目的蛋白質を発現させる系の確立を試みることによりBmNPVバクミドの汎用性を高め、実用化の基盤を築く。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • カイコをタンパク質生産工場とするバクミドの開発
    (◎朴 龍洙/静岡大学創造科学技術大学院)
  • 免疫系細胞表面受容体の組換え蛋白質とウイルスの作製
    (前仲 勝実/九州大学・生体防御医学研究所)

研究の内容及び主要成果

  • ウイルス由来のシステインプロテアーゼ及びキチナーゼ両欠損バクミドを開発し、それぞれ85%及び56%の活性を抑制することができ、タンパク質の発現収率を大幅改善した。また、カイコに適したシグナル配列を連結することにより体液への分泌率を95%以上に向上させた。また、分子シャペロンを共発現することによって、糖転移酵素の発現を2.3~2.5倍も向上することに成功した。
  • 目的タンパク質に適したタグと融合することで、遺伝子発現効率が高く、精製効率を60%以上にすることができ、カイコ一匹あたりから数十~数百?gの生物機能を有するタンパク質を生産・精製することができた。N型糖鎖については昆虫細胞特有のトリマンノシルコア構造を有しており、条件によっては末端にN-アセチルグルコサミンの付加した複合型の糖鎖の修飾が明らかとなった。
  • ヒトやマウス由来の糖鎖修飾を受ける膜表面受容体群の発現の調製法(発現と精製)の確立に成功した。
  • 膜タンパク質GPCRを生物機能の有する状態でウイルス表面にも発現させることができた。また、ワクチンターゲットであるウイルス表面タンパク質とその受容体分子の発現に成功した。

見込まれる波及効果

カイコの体液や脂肪体から迅速にタンパク質に発現させ、生物機能を有する形でタンパク質の機能解析や構造解析を可能とするので、ライフサイエンスの基盤技術として期待できる。特に、バキュロウイルス表面にタンパク質の提示、バキュロウイルスのワクチン化、及び動物細胞への遺伝子導入のためには本バクミドは欠かせないと考えられ、カイコの有効な利用法として付加価値の高い技術となることは大いに期待できる。

主な発表論文

  • Kuroki K., et al.: Detection of weak ligand interactions of leukocyte Ig-like receptor B1 by fluorescence correlation spectroscopy. J. Immunol. Methods 320: 172-176 (2007).
  • Hashiguchi T., et al.: Crystal structure of measles virus hemagglutinin provides insight into effective vaccines. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 104: 19535-19540 (2007).
  • Kato T. and Park E.Y.: Specific expression of GFPuv-?1,3-N-acetylglucosaminyltransferase 2 fusion protein in fat body of Bombyx mori silkworm larvae using signal peptide. Biochem. Biophys. Res. Commun. 359: 543-548 (2007).
  • Park E.Y., et al.: Human IgG1 expression in silkworm larval hemolymph using BmNPV bacmids and its N-linked glycan structure. J. Biotechnol., 39: 108-114 (2009).
  • Ogata M., et al.: Chemoenzymatic synthesis of sialoglycopolypeptides as glycomimetics to block infection by avian and human influenza viruses. Bioconjugate Chem., in press (2009).

研究のイメージ

高次タンパク質の大量発現用バクミドの開発及び応用