研究の目的
難分解性物質による汚染を除去するためには、強力な分解菌を汚染現場に添加するバイオオーグメンテーションが有効であるが、場当たり的に添加するだけでは期待するほどの分解力が発揮されないことが多い。難分解性物質分解菌では分解酵素遺伝子が接合伝達プラスミド上に存在する例が多いが、分解効果の不確実性の解消には、分解能(分解菌、分解プラスミド)の環境中での振る舞いを分子レベルで詳細に理解し、その理解に立脚した汚染環境に最適化・オーダーメイド化されたバイオオーグメンテーション技術を確立する必要がある。本研究はそのための基盤情報を得ることを目的とし、ダイオキシン・カルバゾール分解IncP-7プラスミドを材料に、各種環境中での動態を精査するとともに、プラスミドが機能を発現するために必要な染色体-プラスミド間の相互作用を分子レベルで解明して、環境中での振る舞いの原因を理解する。この理解の上に立って、うまく分解プラスミドを使うにはどうすれば良いのかを、考察する。
研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- ダイオキシン・カルバゾール分解系IncP-7プラスミドpCAR1ホモログの分布の解明
- pCAR1の環境中での動態モニタリング
- pCAR1と多様な宿主細菌ゲノムとの特異的相互作用の解明
(◎野尻秀昭/国立大学法人東京大学生物生産工学研究センター)
研究の内容及び主要成果
- pCAR1を保持する宿主が変わると、その環境中での分解性・生残性が変化し、分解除去に有利な宿主が存在することを見いだした。
- 土壌中でのpCAR1の接合伝達は検出できないが、特定の宿主からは水環境中で高い頻度の接合伝達が認められた。この水環境での接合伝達の成立には、Ca2+やMg2+が必須であることを示した。
- pCAR1上のダイオキシン・カルバゾール分解酵素遺伝子の発現を正に制御する宿主因子を同定した。
- 種々の宿主にpCAR1が保持された場合に、転写変動するプラスミド・染色体の遺伝子を網羅的に明らかにし、それを制御するプラスミド上の核様体形成タンパク質の機能を推定した。
見込まれる波及効果
本研究で示された、宿主の選定の重要性や、二価陽イオンの影響、鉄制御の重要性は、IncP-7群の分解プラスミドに固有の現象ではなく、他の分解プラスミドにも共通の事象である可能性が高い。今後、カルバゾール・ダイオキシンに限らず、他の多環芳香族炭化水素や有機溶剤汚染のバイオレメディエーション技術の最適化に資する事ができる。
主な発表論文
- Miyakoshi M., et al. : Transcriptome analysis of Pseudomonas putida KT2440 harboring the completely sequenced IncP-7 plasmid pCAR1. J. Bacteriol. 189 : 6849-6860 (2007)
- Shintani M., et al. : Conjugative transfer of the IncP-7 carbazole degradative plasmid, pCAR1, in river water samples.Biotechnol. Lett. 30 : 117-122 (2008)
- Shintani M., et al. : Behavior of the IncP-7 carbazole-degradative plasmid pCAR1 in artificial environmental samples.Appl. Microbiol. Biotechnol. 80 : 485-497 (2008)
- Takahashi Y., et al. : The complete nucleotide sequence of pCAR2: pCAR2 and pCAR1 was structurally identical IncP-7 carbazole degradative plasmids. Biosci. Biotechnol. Biochem. 73 : in press
- Miyakoshi M., et al. : High-resolution mapping of plasmid transcriptomes in different host bacteria. BMC Genomics 10 : 12 (2009)