生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 研究成果

ヘテロシス固定による新育種法の開発に向けたアポミクシス機構の解明

研究の目的

「アポミクシス」とは、無性的な胚発生によって植物の種子が形成される生殖様式をいい、母株と全く同じ遺伝子型を持った種子を大量に得ることができる。アポミクシスを農業的に利用できるようになれば、トウモロコシ・ハイブリッドライス・野菜などヘテロシスを利用する作物の育種年限が大きく短縮されるとともに、種子生産コストが低減できるなど、育種・種子生産システムの一大革新が期待できる。本研究ではアポミクシス利用へ向けた基礎として、熱帯性牧草ギニアグラスを研究材料に染色体・ゲノム解析と網羅的発現解析を行い、両方の知見を総合してアポミクシスに関わる遺伝子の全体像を把握することを目指す。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • ギニアグラスのアポミクシス遺伝子座近傍領域のゲノム構造の解明
  • ギニアグラスの花穂で発現するアポミクシス特異的遺伝子群の解明
    (◎高原 学/独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所)

研究の内容及び主要成果

  • ギニアグラスのアポミクシス遺伝子領域に約150個のSTSマーカーを新規に作出した。またこれらのマーカーを用い、アポミクシス遺伝子領域のゲノム断片を含むBACクローンを約300個特定した。
  • アポミクシスに連鎖するSTSマーカーから得られたBACによるFISH解析により、ただ1本のアポミクシス特異的染色体を視覚的に特定した。またアポミクシス遺伝子領域が12Mbp以上に及ぶ広い領域であることを視覚的に示した。
  • ギニアグラス未熟花穂のcDNAライブラリー(計10条件)から合計14,688クローンの塩基配列を決定し、12,477個のユニジーンを得た。またアポミクシス品種で共通に発現するESTを978個、そのうち有性生殖系統で発現しないESTを476個特定した。
  • ギニアグラスの未熟子房のマイクロアレイ解析と定量PCR解析により、アポミクシス未熟子房で特異的に高い発現を示す遺伝子を3個特定した。

見込まれる波及効果

本研究を元に単離される遺伝子を農業的に利用できるようになれば、主としてトウモロコシ・ハイブリッドライス・野菜などヘテロシスを利用する作物の育種年限が大きく短縮されるとともに、種子生産コストが低減できるなど、種苗会社に大きなメリットをもたらすと期待される。

主な発表論文

  • Akiyama Y., et al. : Estimation of genome size and physical mapping of ribosomal DNA in diploid and tetraploid guineagrass (Panicum maximum Jacq.).Grassland Sci. 54 : 89-97 (2008)
  • Yamada-Akiyama H., et al. : Analysis of expressed sequence tags in apomictic guineagrass (Panicum maximum). J. Plant Physiol. 166 : 750-761 (2009)

研究のイメージ

ヘテロシス固定による新育種法の開発に向けたアポミクシス機構の解明