研究の目的
窒素利用効率を高める効果のある遺伝子(GDH,Dof1,CPKd)を導入したイネとバレイショについて、代謝物、光合成・転流機能、収量性などを高・低窒素条件で網羅的に解析する。また、効率的プロモーター解析手法等を駆使して高い窒素利用効率に関わる新たな調節因子の特定を行う。更に、量的遺伝子座(QTL)解析により、高い窒素利用効率に関わる有用遺伝子座を明らかにする。これらの解析により、低窒素条件での効率的な窒素利用と炭水化物生産における遺伝子・代謝ネットワークを解明するとともに、高い窒素利用効率作物開発のためのいくつかの改変ターゲットを明らかにする。
研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- 高窒素利用効率関連遺伝子を導入したバレイショ及びイネの解析並びに代謝・遺伝子ネットワークの解明
(◎大杉 立/東京大学大学院農学生命科学研究科) - 窒素利用効率を司る制御因子の検索
(柳澤 修一/東京大学大学院農学生命科学研究科) - 窒素利用効率の遺伝解析
(根本 圭介/東京大学大学院農学生命科学研究科)
研究の内容及び主要成果
- 窒素利用効率を高める可能性のある遺伝子(GDH,Dof1,CPKd)を導入したイネとバレイショのうち、GDHイネおよびGDHバレイショはともに、乾物生産量、収量および窒素利用効率が向上した。GDHイネについては、隔離圃場でのGDHの収量向上効果を明らかにした。また、GDHイネでは15Nを用いた実験でGDHによってアンモニアが直接同化されていることを明らかにした。。
- 窒素応答に関わる転写因子をコードする二つの遺伝子(MYB-NR1とMYB-NR2)とC/Nバランスを感知する遺伝子(SSV1)を同定した。MYB-NR2はトリプトファン合成酵素のαサブユニット遺伝子およびトリプトファン脱炭酸酵素遺伝子のプロモーターを転写因子として直接活性化できること、また、C/Nバランス感知機構には、SSV1を介したプロテアソームシステムによる特定タンパク質の分解が含まれることを明らかにした。
- "熱研2号×伽耶"組換え近交系の戻し交配集団を用い、バイオマスの向上を伴う窒素利用効率のQTLを4箇所に同定した。最も大きな作用力を示した第3染色体長腕末端部のQTLの原因遺伝子の候補として、フェレドキシン-NADP+ 還元酵素遺伝子を推定した。
見込まれる波及効果
今後、収量・窒素利用効率などに効果を示すGDH遺伝子を実用化を目指した形でイネなどに導入し、飼料用や貧栄養条件での栽培に利用することでわが国および世界の作物生産の増大、わが国の自給率向上などに貢献できる。また、得られた新たな調節因子およびQTLは今後形質転換作物を通じた圃場レベルでの解析等を行うことで、将来の効率的窒素利用に資する作物開発に貢献できる。
主な発表論文
- Shigyo M., et al. : Evolutionary processes during the formation of the plant-specific Dof transcription factor family. Plant Cell Physiol. 48(1) : 179-185 (2007)
- Konishi M., Yanagisawa S.: Sequential activation of two Dof transcription factor gene promoters during vascular development in Arabidopsis thaliana. Plant Physiol. Biochem. 45 : 623-629 (2007)
- Sonoda Y., et al. : Regulation of leaf organ size by the Arabidopsis RPT2a 19S proteasome subunit. Plant J. 60 : 68-78 (2009)
- Sato T., et al. : CNI1/ATL31, a RING-type ubiquitin ligase that functions in the carbon/nitrogen response for growth phase transition in Arabidopsis seedlings.Plant J. 60 : 852-864 (2009)
- Tsutsui T., et al. : DEAR1, a transcriptional repressor of DREB protein that mediates plant defense and freezing stress responses in Arabidopsis. J. Plant Res. 122 : 633-643 (2009)
研究のイメージ
