生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 研究成果

魚類における精子ベクター法の確立

研究の目的

将来にわたり魚類を継続的に安定供給するためには、効率的な品種改良を可能にする精度の高い遺伝子組換え技術が不可欠である。本研究は魚類全般に広く適用できる高効率・高精度の遺伝子操作技術を開発することを目的に実施された。具体的には、系統の離れたゼブラフィッシュとメダカを用いて、培養系において精原幹細胞もしくは精原細胞に遺伝子改変操作を行ない、それらから形成された精子で卵を授精させることで遺伝子改変魚を作出する技術(精子ベクター法)を確立する。さらに、ゼブラフィッシュとメダカから魚類に共通する精子形成調節因子を単離・同定し、様々な魚類において雄生殖細胞培養系を樹立するための基盤を確立する。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • ゼブラフィッシュ培養精子による逆遺伝学技術の確立および精子形成調節因子の解明
    (◎酒井 則良/国立遺伝学研究所系統生物研究センター)
  • メダカ培養精子による逆遺伝学技術の確立および精子形成調節因子の解明
    (山下 正兼/北海道大学大学院先端生命科学研究院)

研究の内容及び主要成果

  • 精原幹細胞の培養法の確立と、解離した精巣細胞を再集合させて腹腔内に移植することで精子形成を誘起する方法を確立し、培養精原幹細胞からゼブラフィッシュ個体の作出に成功した。さらにアデノウイルスで精原細胞へ遺伝子導入できることを見出した。
  • Sld5抗体を用いてゼブラフィッシュ休止期精原幹細胞を同定するとともに、減数分裂異常を示すゼブラフィッシュの新規突然変異体を3系統単離した。
  • メダカにおける顕微授精法(細胞質内精子注入法: ICSI)と精原細胞から精子までの培養系を確立し、薬剤耐性のセルトリ細胞株も樹立した。バキュロウイルスによって精原細胞へ遺伝子導入できることも見出した。
  • 20種以上のメダカ蛋白質に対する抗体を作製し、減数分裂特異的染色体動態の包括的解析を行うとともに、ガン抑制遺伝子p53突然変異メダカの解析から精原細胞の増殖因子として白血病抑制因子(LIF)を同定した。

見込まれる波及効果

系統の離れたゼブラフィッシュとメダカで精子ベクター法の確立に成功し、本法は汎用性のある遺伝子改変技術となりうることを証明できた。今後、他の魚種にも応用することで、魚類の標準的な遺伝子改変技術となろう。本技術はまた、標的遺伝子置換を可能にするもので、品種改良を格段に飛躍させる突破口となりうる。精原幹細胞培養系や顕微授精法の確立により、未成熟な個体や凍結幹細胞・凍結乾燥精子から次世代を得ることも可能となった。希少種や遺伝子導入魚など、多様な遺伝子資源の効率的保存の点でも水産業に多いに貢献すると考える。

主な発表論文

  • Sakai N.: In vitro male germ cell cultures of zebrafish. Methods 39: 239-245 (2006).
  • Iwai T., et al.: Structural components of the synaptonemal complex, SYCP1 and SYCP3, in the medaka fish Oryzias latipes. Exp. Cell Res. 312: 2528-2537 (2006).
  • Sakai C., et al.: Chromosome elimination in the interspecific hybrid medaka between Oryzias latipes and O. hubbsi. Chromosome Res. 15: 697-709 (2007).
  • Kawasaki T., et al.: Introduction of a foreign gene into zebrafish and medaka cells using adenoviral vectors. Zebrafish 6: 253-258 (2009).
  • Otani S., et al.: Artificial fertilization by intracytoplasmic sperm injection (ICSI) in a teleost fish, the medaka Oryzias latipes. Biol. Reprod. 80: 175-183 (2009).
  • Iwai T., et al.: Production of transgenic medaka fish carrying fluorescent nuclei and chromosomes. Zool. Sci., 26: 9-16 (2009).

研究のイメージ

魚類における精子ベクター法の確立