生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 研究成果

油脂の口腔内化学受容および脳内情報処理機構解明による高嗜好低エネルギー油脂開発の基盤構築

研究の目的

健康な社会の食基盤である低カロリーで満足感のある油脂を開発する。油脂に対する高度な嗜好性ならびにその成立には口腔内での舌での化学受容と摂取後のエネルギーの両方が重要な要素であるという仮説のもとに、油の口腔内化学受容、内臓からのエネルギー情報、脳内での統合機序と報酬系を中心とした執着に至るメカニズムを解明し、低カロリーで高度な満足感を兼ね備える新規油脂関連食品開発の科学的基盤を構築することを目的とする。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 脂肪(油脂)分子の口腔内化学受容メカニズムの解明
    (都築巧、江口愛/京都大学農学研究科)
  • 脂肪分子の内臓エネルギー情報の実体ならびに脳への伝達機構の解明
    (◎伏木亨、松村成暢/京都大学農学研究科)
  • 脳内での各情報の統合機序ならびに高度な満足感発生機構の解明
    (井上和生/京都大学農学研究科)
  • 脳内における脂肪応答ニューロンの探索
    (井上和生、北林伸英/京都大学農学研究科)
  • 口腔内情報ならびに内臓エネルギー信号を利用した高嗜好性低カロリー油脂の試作ならびに評価
    (◎伏木亨/京都大学農学研究科)

研究の内容及び主要成果

  • 油脂受容体候補CD36,GPR120を味蕾細胞に見出し、それらのリガンドアッセイ系を構築した。基本的な特異性が動物の摂取行動と一致した。また、新規な脂肪酸リガンドを見出した。
  • 油脂の摂取後に、そのエネルギー情報がどのように脳に伝達・認識されるかについて、動物の油脂に対する強化効果を指標にした動物行動学による解析を行った。油脂のエネルギー情報発現にはβ酸化が関与する系と、胃内に投与した糖質でも代替えできる系があることを発見した。
  • 油脂を摂取させた実験動物の脳内報酬系刺激機構を解析した。βエンドルフィンによって駆動される系とドーパミン作動性神経に駆動される系の両方の活性が油脂の摂取によって増大することを明らかにした。
  • 報酬系に関わる中脳腹側被蓋野に油脂の摂取に特異的に応答するニューロンを発見した。
  • 上記各項目の成果を応用して、新規油脂の試作・評価を行った。微量の脂肪酸が食用油脂に匹敵する高い摂取意欲をもたらすことを動物実験で明らかにし、人間を用いた嗜好実験で確認した。

見込まれる波及効果

高度の味覚欲求と健康欲求の背反に直面している現代社会や食品産業にとって、高い嗜好性を維持した低カロリー油脂の基盤研究は、インパクトのある論理として食品開発に応用することが可能である。本研究では、エネルギーが無視できるほどの微量の脂肪酸が油脂に匹敵する口腔内刺激と嗜好性を有することを動物実験で発見し、人間でも嗜好性を確かめることができた。この成果は、多くの食品に応用可能な基礎的情報を与えるものである。また、高度な嗜好性の成立と持続に重要な油脂のエネルギー部分が糖質でも代替えできることの発見は、高嗜好性の油脂代替物の概念を理論的に拡張するものであり低脂肪食品の開発への波及効果は大きい。また、油脂の高い嗜好性のメカニズムを解明することで油脂に関連する食品開発に与える多様な波及効果が見込まれる。

主な発表論文

  • Matsumura S., et al.: Colocalization of GPR120 with phospholipase-Cβ2 and α-gustducin in the taste bud cells in mice. Neuroscience Letters 450:186-190 (2009)
  • Matsumura S., et al.: Mercaptoacetate inhibition of fatty acid b-oxidation attenuates the oral acceptance of fat in BALB/c mice. American journal of physiology295: R82-R91 (2008)
  • Matsumura S., et al.: GPR expression in the rat taste bud relating to fatty acid sensing. Biomed Res.. 28(1), 49-55 (2007)
  • Yoneda, T., et al.: The palatability of corn oil and linoleic acid to mice as measured by short-term two-bottle choice and licking tasts. Physiology and Behavior.91: 304-309 (2007)
  • Yoneda, T., et al.: Reinforcing effect for corn oil stimulus was in a concentration-dependent manner in operant task in mice. Life Science. 81: 1585-1592 (2007)

研究のイメージ

油脂の口腔内化学受容および脳内情報処理機構解明による高嗜好低エネルギー油脂開発の基盤構築