生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話5》記憶の精度を高めるプラズマローゲン

2020年5月15日号

SDGs目標3.すべての人に健康と福祉を SDGs目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう SDGs目標12.つくる責任つかう責任

機能性表示食品

認知症の高齢者は2012年には462万人でしたが、2025年にはさらに200万人余りが増え、675万人になると予測されています (厚生労働省の「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」)。こうした中、高齢者の認知機能の改善を目指して、さまざまなサプリメントが出ていますが、鶏のムネ肉から抽出したプラズマローゲンという機能性成分が注目されています。プラズマローゲンを含むサプリメントのいくつかは「機能性表示食品」になっています。

※「機能性表示食品」は、事業者の責任で商品パッケージに科学的根拠に基づく機能性を表示できる食品です。この制度は2015年4月に始まり、事業者は事前に安全性や機能性の根拠に関する情報を消費者庁へ届け出る必要があります。

ヒトの試験で言語記憶力の維持

鶏のムネ肉由来のプラズマローゲンを機能性成分とするサプリメントを開発したのは丸大食品株式会社 (大阪府高槻市) です。このサプリメント (写真1、2)は「言葉を記憶して思い出す『言語記憶力』を維持する」というヘルスクレーム (健康強調表示) を持つ機能性表示食品として消費者庁に受理されました。

写真1 プラズマローゲンの素材「エキス」
写真2 プラズマローゲンの素材「粉末 (中央)」
製品には錠剤、顆粒、カプセルなどがある

(写真はいずれも丸大食品株式会社提供)

プラズマローゲンは主に細胞膜の成分として知られるリン脂質の一種です。心臓や骨格筋のほか脳内にも多く含まれています。加齢とともに減るといわれ、アルツハイマー病患者の脳では他のリン脂質と比べて、プラズマローゲンが減少していることが知られています。

マウスの実験でプラズマローゲンの摂取によって学習記憶行動が向上したことから、丸大食品株式会社では健常者74人 (50歳~79歳)を対象としたプラズマローゲンの摂取による認知機能改善効果を調査する試験を行いました。

12週間の摂取後、言語記憶力や視覚記憶力、反応時間などを調べる認知機能検査を行ったところ、60歳以上のグループの 1mg の摂取群ではプラズマローゲン非摂取群に比べて、言葉を記憶して思い出す言語記憶力が有意に高い結果となりました。これらの試験結果は学術誌「薬理と治療」(2019年5月20日発行47巻5号) に掲載されました。

まだヒトでの試験研究事例が少ないという課題はありますが、中高年の方がプラズマローゲンを摂取すれば、物忘れの悪化が軽くなることを示唆するものです。

消費者庁のホームページでも開示

丸大食品株式会社のプラズマローゲンの原料は、産卵期間終了後の肉質が硬く精肉への利用が限定的な親鶏のムネ肉です。こうした親鶏は年間数億羽も発生しているといわれており、この事例はその有効活用にもなっています。

プラズマローゲンをはじめとする機能性表示食品に関する詳しい研究データは消費者庁のホームページで開示されています。もっと詳しく知りたい方は消費者庁の機能性表示食品制度届出データベースをご覧ください。丸大食品株式会社の機能性表示食品の届出番号は「E648」です。

事業名

民間実用化研究促進事業

事業期間

平成19年度 ~ 平成21年度

課題名

親鶏由来の機能性リン脂質群の分離とその含有食品の製造

研究代表機関

丸大食品株式会社


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