生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話9》米を食べて育つ「みやぎサーモン」
2020年7月15日号
純国産ブランドを目指す
日本の主食の米を食べて育つギンザケがいるのをご存じでしょうか。宮城県内で養殖されるギンザケの多くが宮城県産の米を混ぜた飼料を食べて大きくなっています。生産者たちは海外への輸出も視野に、宮城発の純国産ブランドサーモンの確立を目指しています。
宮城産養殖が国内の8割以上を占める
宮城県は1970年代に日本で初めてギンザケの養殖に成功したギンザケ養殖発祥の地です。宮城県の太平洋岸は深く切り立ったリアス式海岸に恵まれ、サケの養殖に適しています。太平洋岸に面した南三陸町、女川町、石巻市の海域が主な養殖場で、宮城県内のギンザケ養殖は国内シェアの8割以上を占めます。ギンザケは日本の河川には遡上しません。国内での養殖は11月~7月に限られ、6~7月が出荷の最盛期となります。
宮城県は地の利に恵まれていますが、世界的に見るとサケを養殖するチリやノルウェーなどの産地との競争が激しくなっています。飼料の主原料を輸入に頼るため、飼料価格が不安定になるのが課題のひとつです。最近は国内でもご当地サーモンを養殖する動きが出てきており、他産地との差別化をはかり、独自色を出す必要性がますます高くなっています。そうした中で生まれたのが、宮城県産の米を食べさせる試みです。
宮城県産米は安定した供給が可能
養殖生産者や流通業者などは2013年に「みやぎ銀ざけ振興協議会」をつくり、品質向上やブランド化に取り組んできました。その大きな挑戦が宮城県産の米を飼料に使うことでした。一般にギンザケの養殖に使われる配合飼料のおよそ半分はイワシなどの魚粉で、残りは小麦粉や大豆などの穀類、糠類、油脂類です。残念ながら、その飼料原料の約9割は輸入です。輸入に頼れば、為替変動などで価格が不安定になり、養殖経営を圧迫する要因にもなります。
そこで考え出されたのが国産の米を使った飼料です。佐藤實・東北大学農学研究科教授や宮城県水産技術総合センター、国立研究開発法人水産研究・教育機構が中心となって、2016年から南三陸町などの養殖場で米を混ぜた飼料でギンザケを育てる実験を始めました。
米の種類や配合割合を変えて飼育した結果、魚粉は現行のままで、小麦粉の代わりに米を20~25%混ぜても、ギンザケは従来の飼料と同様に成長し、身の味だけでなく、食べたときの舌触り、におい、見た目も差がないことが分かりました。どれだけの飼料を与えれば、1kgの身になるかを表す増肉係数も1.2~1.4と従来の飼料とほぼ同じです。
こうした試行錯誤の末、2018年に宮城県産飼料米を30%配合した養魚用飼料 (写真2) が誕生しました。現在、宮城県内にギンザケ養殖を営む経営体は約60ありますが、そのうち南三陸町などの16経営体が飼料米を使って飼育しています。米を食べて育つギンザケの今年の生産量 (予定) は約3400トンで宮城県産の約3割を占めています。
(写真1、2とも「みやぎ銀ざけ振興協議会」提供)
地理的表示(GI)認証の取得
米を食べて育つギンザケも含め、宮城県の養殖ギンザケは、2017年に「みやぎサーモン」として、宮城県産の農林水産物としては初めて、国から地理的表示 (GI) 保護制度の認証を取得しました。GI保護制度は産地の特性と結びついた社会・経済・文化的な評価が高い産品の名称を知的財産として保護する制度です。
みやぎサーモンは、ギンザケ本来のおいしさを保つための鮮度保持処理を行った高品質・高鮮度が特徴です。身にツヤと張りがあり、刺身にぴったりの鮮度が自慢です。輸入サーモンに比べて、比較的脂が少なく、甘みのあるヘルシーな食材でもあります。
宮城県内の山でとれたクリの木チップで燻した「みやぎサーモンSMOKE」や「押し寿司」など、より付加価値の高いサーモンを目指し、宮城県内の水産関連会社によるオール宮城プロジェクトも進んでいます。今年1月には米国カリフォルニア州の日本食イベントにも参加し、大好評でした。
海外への展開
ギンザケ生産・加工業者は高品質のみやぎサーモンを海外へ展開することを考えています。ただ、ギンザケを含めた水産物は、鮮度低下が早く、品質を保つための冷凍輸送が欠かせません。そこで威力を発揮するのが、東北大学などが開発した「スマート解凍」技術です。電子レンジに似た電磁波を利用する解凍法で、冷凍品を迅速・均一に、ドリップレスで、変色やにおいの発生を抑え、どこでも解凍して食べられるようになりました。
事業名
革新的技術開発・緊急展開事業 (うち地域戦略プロジェクト)
事業期間
平成28年度~令和元年度
課題名
米中心飼料による純国産ギンザケ養殖技術開発と凍結・解凍技術の革新による輸出の拡大
研究代表機関
東北大学大学院農学研究科
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こぼれ話は毎月1日、15日に更新予定です。
こぼれ話の①~⑱は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。