生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話12》ロボットでサンマかば焼きを缶詰に

2020年9月1日号

SDGs目標2.飢餓をゼロに SDGs目標3.すべての人に健康と福祉を SDGs目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう SDGs目標14.海の豊かさを守ろう

岩手大学がロボット開発

イワシやサンマなどの魚を加工して缶詰などにする水産加工場では恒常的に担い手が不足し、働く人の高齢化が進んでいます。岩手大学理工学部の三好扶 (みよし・たすく) 教授らの研究チームは人工知能(AI) を活用し、サンマの切り身の大きさを認識して、定められた量を缶に詰める「定量充填作業用ロボット」を開発しました。近く実証試験が始まります。今後、ロボット化が水産加工業全体に広まれば、大幅な生産性向上が期待され、震災後に落ち込んだ水産加工業の発展にも大きく貢献できます。

切り身に接触せず、釣り上げて缶へ充填

サンマのかば焼き缶詰を生産する加工場の工程は、身を切って、焼いて、一定の重量の切り身を見栄え良く缶に詰める作業に大きく分けられます。身を切って焼く工程は専用の機械が用いられてきましたが、全工程の約3割を占める最後の「缶への定量充填作業」は機械化が難しく、人手に頼る人海戦術が続いています (写真1)。

働く人が立ったままの姿勢で魚の切り身をその大きさに応じてバランスよく巧みに選別して缶に詰める作業は長年の経験と熟練を必要とします。しかし、その作業が重労働でもあることから、新規担い手が不足し、高齢化が進んでいるのが実情です。このため、この定量充填作業をどう機械化するかが大きな課題となっています。

写真1 : 人手による充填作業
写真2 : 切り身をつかむロボットハンド

(写真は岩手大学提供)

その打開策として、三好氏らは定量充填作業をロボット化することに着目し、2015年から、熟練作業者のノウハウを人工知能に学習させ、缶詰製造工程の全自動化に取り組んできました。

サンマかば焼きの缶詰充填作業は、ベルトコンベヤーで流れてくる焼いたサンマの尾部と腹部を1枚ずつ選んで缶に詰めていきますが、その際、まず最初に尾部の皮面を上向きにして缶の底に置き、次いで腹部の皮面を下向きにして重ねていくことが必要になります。缶に詰める量は 約80g と定められています。こうした一見簡単なようで複雑な選別充填作業をロボットにやってもらおうというわけです。

その方法として、三好氏らは、ベルトコンベヤーで流れるサンマの切り身の大きさや重さ、位置を人工知能で瞬時に識別し、選別することでロボット化を進めてきました。このロボットはサンマの尾を反転させて、皮面を上向きにする高度な作業もこなします。さらに、サンマの切り身に触ることなく、空気の力を利用して、身をさっとつりあげて所定の缶に収める「非接触型ハンド」(写真2) を使っているのも特徴です。

年間数千万円のコスト削減も可能

ロボットハンドが焼かれた切り身をさっとつりあげて、すっと運び、缶に素早く充填するのに要する時間はわずか8秒です。この処理スピードは、ほぼ人間と同じくらいです。現状では1日あたり10万個の缶詰をつくるのに12人で約8時間かかっていますが、この作業がロボットシステムの導入で楽々とできるようになるのです。

12人分の人間に相当するロボットの導入費用は5000万円近くかかりますが、一工場で年間、数千万円分の人件費が節約できることも期待できます。

今年中にも実証試験

このロボットシステムは、イワシやサバなど他の魚の缶詰作業にも応用できます。さらにはコンビニエンスストアの弁当作りやレトルト食品の食材の充填にも応用できます。

このロボットシステムが実際にどの程度の成果を発揮するかの実証試験が、今年中に缶詰や冷凍食品などを製造販売する津田商店 (岩手県釜石市) と連携して行われます。三好氏は「生産性を高めるロボットシステムが導入されれば、イワシやサバなど栄養豊かな多獲性魚類の缶詰がより安価に供給され、国民の健康向上にも貢献できます。工場での生産性の向上は、作業従事者がより付加価値の高い分野にシフトすることを可能にし、地域産業や食品製造業の活性化にもつながります」と将来の波及効果に期待しています。

※AIロボットがサンマの切り身に接触せず、巧みに身を釣り上げて缶に収める驚異の様子は You Tube で公開されています。以下です。

【IwateMiyoshiLab】(外部サイト: YouTube)

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業

事業期間

平成28年度~平成30年度

課題名

多獲性魚類加工のためのロボットシステムの開発

研究代表機関

岩手大学


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