生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話13》雑海藻でウニやナマコを飼育

2020年9月15日号

SDGs目標2.飢餓をゼロに SDGs目標14.海の豊かさを守ろう SDGs目標15.陸の豊かさを守ろう

雑海藻をウニやナマコのえさに活用

北海道の東部沿岸海域にあるコンブ漁場では、利用価値の低いスジメ、アイヌワカメ、ウガノモクなどの雑海藻 (写真1) がたくさん生育しています。これらの雑海藻は商品価値の高いコンブ類の生育を阻害するため、漁業者はその対処法に頭を痛めています。その一方、各地の海で海藻類が育たない「磯焼け」現象 (写真2) が広がり、海ではやせたウニ (写真2) が増える問題が起きています。さらにウニを育てる施設ではえさとなる海藻類が足りず、ナマコの種苗を育てる施設では専用のえさが未開発という課題を抱えています。こうした三重苦の打開に挑んだ水産研究・教育機構、北海道立総合研究機構、北海道、北海道栽培漁業振興公社の4機関は雑海藻を加工し、ナマコの種苗やウニのえさとして活用する技術を開発しました。

写真1 : 利用価値の低いスジメ
(北海道立総合研究機構提供)
写真2 : 海藻類が育たない磯焼け
(北海道立総合研究機構提供)
写真3 : 身の少ないやせたウニ
(水産研究・教育機構提供)

湯通しスジメとハクサイの併用で味良好のウニ誕生

雑海藻のスジメをえさに用いる場合、どのように加工すれば、ウニが順調に成長し、食味がよくなるのでしょうか。同水産技術研究所・亜寒帯浅海域グループの鵜沼辰哉・主幹研究員らは、生、塩蔵、冷凍、乾燥、湯通し、湯通し冷凍、湯通し乾燥の7種類のスジメをエゾバフンウニに4週間与えてみました。湯通しは沸騰した海水に30秒浸すやり方です。すると、湯通ししなかった4種類のスジメに比べて、湯通ししてから保存した3種類のスジメのほうが、大きくてきれいな身ができることが分かりました。

しかし、ウニは生でない海藻を食べると味が苦くなる性質があり、湯通しスジメを与えたウニにも苦味が生じました。

写真4 : 身入りのよい大きく、きれいなウニ
(北海道立総合研究機構提供)

そこで今度はキタムラサキウニを対象に湯通し乾燥スジメを6週間与え、そのあとに生のハクサイを3週間与えたところ、苦みが消え、見た目の色もよく、身も大きく、甘みのあるウニ (写真4) ができることが分かりました。

幼ナマコは粉末化した雑海藻と珪藻土ですくすく成長

一方、ナマコについては、乾燥させて粉末化した雑海藻のアイヌワカメ、スジメ、ウミトラノオ、アナアオサを幼ナマコ (写真5) に4週間与えたところ、一般的に使われている輸入品の海藻粉末に比べて、成長が良いことが分かりました。ナマコには歯がなく、消化管には大量の泥や砂が見られます。その特質を考え、さらにスジメの粉末に珪藻土を 20~90% の割合で混ぜて、幼ナマコに4週間与えたところ、珪藻土の混合割合が高いほどナマコの成長率が高いことも分かりました。

写真5 : 海藻粉末を食べる幼ナマコ
(水産研究・教育機構提供)

こうした研究成果が実り、幼ナマコの飼料として、2019年9月に「ナマコの主食」(写真6)、2020年6月には幼ナマコよりもさらに小さな稚ナマコ向けに「ナマコの離乳食」が市場に登場しました。魚の加工品を手掛ける地元の株式会社ワイエスフーズ (北海道森町) が製造・販売しています。海水で溶くだけで使用できる使いやすい飼料です。

写真6 : 幼ナマコの飼料
(水産研究・教育機構提供)

効率的な収集体制の構築が今後の課題

雑海藻がウニやナマコのよいえさになることは立証できましたが、雑海藻を効率的に集めて、漁場から、飼料を製造する工場へ運ぶ体制が出来上がっていないことが課題として残っています。すでに飼料として販売されている「ナマコの主食」と「ナマコの離乳食」は、漁場ではなく、水産加工場で廃棄された海藻を原料にしているため、ある程度は資源の有効活用になっていますが、雑海藻をさらに有効利用する効率的な仕組みを構築することがこの研究課題の最終的な目標です。

一方、本州でも、アナアオサやウミトラノオなど雑海藻の有効利用は進んでいないため、この研究成果は北海道以外でも生かされることが期待されています。

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業
(旧農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業 (実用技術開発ステージ))

事業期間

平成27年度~平成29年度

課題名

道東海域の雑海藻を原料とした水産無脊椎動物用餌料の開発と利用

研究実施機関

水産研究・教育機構水産技術研究所 (旧北海道区水産研究所) など


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